第三話
「AIから下された命令は、貴方の殺害」
パイフはまだ、女をじっと見つめている。
すると女は、上に羽織っていた硬い生地のテントラインコートのチャックを一気に下に引いた。
ゼイが動き出し、コートを剥ぐ。
パイフは体に張り付くスーツ姿となった女の手を女の後ろで捕まえ、女の背中の上部に体重をかけて腰を曲げさせた。
「もう一度聞く、なぜここに来た」
「貴方の、生存確認、そして、勧誘よ」
「今更なにをしろって言うんだ」
「そうね、例えば溜まりに溜まった報告書の提出とか」
パイフは、女の
「報告するようなことをした覚えはねぇけどな」
「まず貴方のお気に入りの彼について、そして、この辺りで定期的に消滅する怪獣について、、とか」
「どれもこれも、しらねぇな」
女は先程自分が来たほうの森の奥を見つめる。
「おめぇ、なにを見てる。」
「リスよ」
「ゼイ、見てこい」
ゼイは女のコートを捨てて、森の奥に進んでいった。
女は走っていくゼイに語りかける。
「ねぇ!リスってのは嘘よ!人間!殺さないであげて!」
ゼイは、振り返ることもなく走っていく。
「部下が勝つっつー可能性は、考えねぇのか。」
「任務が成功すれば勝とうが負けようがどっちでもいいのよ」
「そんなもんか。」
「そんなもんよ。因みにパイフ、あの子をAIに入れるっていうのはどう?」
「嫌だね」
パイフの回答は速かった。
「それは、何故?」
「言えねぇ」
「なるほど、じゃあ、私も言わないでおくわ」
「なにをだ?」
「そりゃぁ、AIが貴方をわざわざ探した理由よ。」
パイフが女の腕を縛る力が強まる。
女は喋り続ける。
「レオス、アナレイア、リリー」
パイフは女のスネを蹴って転ばせ、地面に伏させた。
「ゼイは、おそらく怪獣だ。人間に近しい何かのな!」
「速いわね。彼ら、彼女らの身分消失が起こる可能性があるわ」
パイフはより強く女を押さえつける。
「何故だ、AIに所属している以上、保証されるはずだ」
「貴方は、任務中に行方不明、そのまま『トンボ』と相打ちして死亡ということになっているわ」
パイフが地面を殴る。
土が女の顔にかかる。
「何故だ、生命受信機があるだろう」
「それが紛失されたの」
「ふざけやがって!身分給与保証期間は!?20年はあっあはずだ」
「保証期間を利用した詐欺が起こってね、短縮されたのよ。」
「具体的にはいつだ」
「明後日まで」
パイフの手から血が滴る。
「クソが、、、」
「何がそんなに嫌なのよ」
「ゼイは怪獣だ!カプセルの対象になるんだ!殆ど人間なのに、人間など殺しちゃいないのに!」
「うるさいわね、この15年で何があったのか知らないけど、、、それで、帰るの?帰らないの?」
「帰る。ただ、ゼイのことは置いていく」
「一緒にいる生物がいれば一緒につれてこいって話なのよ」
「駄目だ、ゼイは置いていく。ゼイの存在をお前が秘匿するならお前を解放しよう。」
「存在を秘匿は無理よ、バレてるもの。逃げられて連れてくることができなかったということならいいわ」
「ならそれでいい」
「もう、私の経歴にまた汚点がついちゃったじゃない。」
パイフは、女を解放して、その場に座り込んだ。
女は、コートを取って羽織る。
同事に、ゼイが大男を引きずって帰ってきた。
「あら、エリオット、死んでない?」
「死んでないと思うよ、蹴り飛ばしただけ」
女は片眉を下げて身を震わせたあと、ゼイに近づいて、腰を下げて話しかける。
「ゼイくん、私と一緒にAIに来ない?」
「AI?」
「怪獣と戦う勇敢な人たちの組織よ」
「おい、やめろ」
パイフは女を止めようとするが、女は止まらない。
「林檎はある?」
「たしか、庭にあったはずよ」
「ない」
パイフはまた、割って入る。
女はパイプの方を見て吐き捨てる。
「邪魔ね、パイフ」
「邪魔だと思うならお前がどっか行きやがれ」
女は視線をゼイに戻す。
「興味があったら教えて、明日もう一度くるから。」
「う、うん」
「じゃ、楽しみにしてるわね」
女は大男をゼイから引き取り、いつの間にか脇に抱えていた連れてこられた者を担いで、森の奥へ消えていった。
女の歩く音も、大男の引きずられて地面を削る音すら聞こていない。
ゼイはその後姿を見詰めていた。
右足は半歩前に出ている。
「ゼイ、、明日、出発する」
「今度はどこに?」
「いや、いつもの感じじゃねぇ、明日出発する場所には、豆もなってねぇし、川も流れてねぇよ」
「へぇ、、、」
「ただ、豆より多い数の、人間がいる。」
「へぇ、ところで豆煮、作ってある?」




