前話2 少年
男が見上げ時に見えた少年の顔は、バケモノとはいい難かった。
男はそれに気づいてから、ポケットのなかを探って、そっとため息を付いて、半回転して、空を見た。
少年は、しばらく男の様子を見ていたが、突然何も言わずに動き出した。
男は、何も言わない。
何もしない。
広い空を見上げて、ポケットから煙草を外に出して。
空を反射する目を開いたまま。
「(943.847m」
「ん?」
男の口は開かなかった。
しかし、少年の言葉に、応えた。
少年は、少し笑って、倒れた『トンボ』に近づいて、『トンボ』の皮を剥ぐ。
そして、皮の奥にある『トンボ』の胸筋を千切って口にほおった。
「847(@8m」
男は少年の方に顔だけ向けた。
すると、少年が不味い色をした『トンボ』の肉を男に差し出した。男はそっと、目を閉じた。
ただ、後で焼いて食ってみようと思った。
ー♢ー♢ー♢ー
「パイフさん、どこ行っちゃったんでしょうね」
「お前は、なんだ、またその話か」
腰に剣を据える長身の女の後ろを、通信機の声をした女が付いていく。
通信機の女は、消えた男、、パイフの話をまた、持ちかけていた。
「トンボと相打ちになった。そういう見解だったはずだ。」
「そんな訳ありません!」
「根拠がないだろう」
「それは、そうなんですけどぉ……。」
長身の女は歩きを速めた。
通信機の女も合わせて、駆け足になる。
「だって、レベル3の『フグ』のカプセルもあるし、、レベル1だけど『ウサギ』のカプセルだって!」
「一瞬の戦いだったのだろうな。」
「でも、『トンボ』の到着予想より先に通信機が破壊されてるんですよ!これは、『トンボ』以外の何かからの干渉があったことを示しています!」
「お前がその調子だったから、パイフ自ら破壊したのだろう。」
「わっかんないですよ!本当はどうかなんて!でも、いくらなんでも除籍はないと思いますよ!本、当何に考えてんだかわかんないですよ!」
長身の女は立ち止まって、通信機に口を当てた。
「私の後ろにくっついてくる通信野郎を部屋に戻せ」
「そんな!野郎じゃないですよ私は!」
壁から現れた男二人が通信機の女の行く手を阻んでいる。
その間に、長身の女は、早足のままいってしまった。
ー♢ー♢ー♢ー
土を踏む音がする。
少しずつ、遠くなる。
男、パイフは目を開けた。
森を背景に、『トンボ』の割かれた腹が見える。
頭を回して、『トンボ』を視界から外した。
石混じりの灰色の土と、根だけが残った木が見える。
パイフはそっと、腰を曲げた。
それまで視界の半分を占めていた地面が見えなくなる。
「おぉぉ、、」
簡単に、顎が動いた。
「@」
声が聞こえた。
色のある木のみをもった少年が、パイフの方を見つて笑っていた。
パイフは、地面に手をおいて前に体重をかけた。
パイフの腿が、地面を離れた。
足の平だけを地面につけたパイフに、少年は走って近づいて、赤いきのみを差し出した。
パイフは眉間を抑えて俯いたあと、目を見開いて口を開いた。
「あぁ、林檎か」
「4いん&おか?」
「いんおかじゃねぇよ、林檎だ、林檎、食えんのかな?」
男は林檎を少年から受け取り、太陽にかざして下から見つめた。
「りん&お(あ?」
「林檎」
「りんお」
「お、いいね」
「お、いい!e」
男の言葉を復唱する少年に、パイフの口角が上がる。
パイフは林檎を食べようとせず、表面を爪で掻いている。
「ライターは、っと、そういやさっきどっかやったなぁ、」
パイフがしゃがんで土を分けていると、太いきゅうりをかじった時のような、気持ちの良い音が聞こえてきた。
続けて、咀嚼音が響く。
「ん?お前、生食はよくないぜ、加熱しねぇと。」
パイフは指で少年の持つ林檎を指して指でバツマークをつくり、手のひらを真上に向けて、一瞬だけ首を傾けた。
少年はそれに眉を内側に少し下げた。
そして、口を微妙に尖らせ、パイフの口と食いかけの林檎を二、三度繰り返し見た。
「いつかに食った真っ赤なキノコで俺ぁ死にかけーーーうがっ、」
少年は、パイフの口に、林檎を押し込んだ。
林檎はパイフの口で飲み込むには大きすぎた。
パイフは、やむなく噛み切った。
「おめぇ、何してくれてんだ、、!おえっ、」
パイフは食った中身を吐き出す。そして、下を大きく出して、手で下を洗った。
少年は眉間にシワを寄せ、パイフの捨てた林檎を拾って強く噛み砕いた。
「クソッ、だから、熱を入れろって言ってんだろうが」
パイフは少し歩いて森の方から何回かに分けて枝を何本かと、燃えやすい木の葉や草を拾ってきた。
少年は黙ってみていただけのように見えたが、パイフが少し遠くに行ってから戻ってきたときには、心なしか太めの枝が混じっていた気がした。
パイフはそれらの一部を積み重ねて、木の葉と燃えやすい葉にライターで火をつけ、細い順に枝を燃やしていく。
「こんなもんか」
パイフは深く息をついて、腰を下ろす。
少年は半歩開けた隣にすわった。
パイフがいつの間にか林檎をいくつか取ってきており、素手で火に近づけた。
しかし、火の粉が飛んで、手にかかる。
「アッチ、クソッ、、」
それを見た少年はパイフ持ってきた林檎を一つ掴み、持ったまま火に手を入れた。
火から煙が上がる。
「はっっ!?お前、火傷するぞ!すぐ手ぇ出せ!」
必死の形相になって怒鳴るパイフに少年は怖じけて林檎から手を離す。
「見せろ!はやく!」
全く動こうとしない少年にパイフは林檎を捨てて無理矢理手を取り、近づいてまじまじと見つめた。
不思議と、少年は全く抵抗しなかった。
「おい、お前、、火傷しねぇのか?どこも痛くねぇのか?熱くも?」
少年はパイフの目を優しく開いた顔を見て、ゆっくりと手をパイフの手に乗せた。
パイフには、手の平はまるで粘土で造られた手のように冷いと感じたが、流れている血は暖い用に感じられた。
「火傷、、しねぇんだな。ならいいんだけどよ。あんま、、危ねぇことすんなよ。」
パイフがゆっくり少年から手を話すと、少年はしばらくパイプの方を見たあと、火の中に手を入れて、焦げた林檎を取り出して、噛んだ。
パイフがあまりにも林檎を食べる少年の方を見ているので、少年はパイフに焦げた食べかけの林檎を差し出した。
パイフは横に手を降って、少しずつ、口を開いた。
「おめぇ、、名前、つーか、呼び名、ないよな、、」
少年は焦げた林檎片手に食べながら、新しくもう一つの林檎を焼き始めていた。
「エリーゼリアン、、、男の子か、ゼリアン、いや、ゼイって、読んでいいか。」
少年は、少し生焼けの林檎を、パイフに差し出した。




