第十二話
さて、AI3階、第三隊長室。
「ピア」
パイフは、煙草を吸うピアノ隣で口を開いた。
「何?」
ピアが煙草の火をねじり消す。
パイフのため息が聞こえる。
「ゼイのこと何だがな」
「あら、久しぶりね、あなたの口からなかなか彼の名前が出てこないから、忘れちゃってるのかと思ってたわ」
「んなこたぁ、ねぇよ」
パイフは薄暗い部屋の明かりをつけた。
「あいつ、怪獣だっつったろ?」
「そうね、あの回復、パワー、そのぐらいじゃないと説明がつかないわ」
パイフがだらしなくソファに腰掛ける。
「俺ぁなぁ、『ヒト』だと思ってんだ」
「、、なら、『サル』に極微かもね」
ピアが、パイフの対岸に足を組んで腰掛ける。
「あぁ、哺乳類は多いし、『オラウータン』も『サル』に極微反応だったからな」
「じゃあ、今日ので、そのへんが明らかになるかもってこと?」
「あぁ」
パイフはピアに手を差し出す。
ピアはその手に煙草を一本乗せた。
「あ、俺ぁ、ライターを持ってねぇんだった」
「貸そうか」
「いやぁ、いい」
パイフは第3隊長室からでて、ポケットに煙草を入れた。
そして、親指と人差し指の間で、念入りに、強く、捻り潰した。
ー♢ー♢ー♢ー
「エラー?こんな画面になるの?」
看護師が端末付属のボタン群を操作している。
ゼイは、その様子をじっと見つめる。
「うーん、わっかんないわねぇ、、」
看護師は機械の裏を見たり、軽く叩いたりするが、何かが起きるという気配はない。
「あ!次のって、その子か!」
明るい声。彼女の前で暗い話はできないと思わせる笑顔。
前を開けて楽に着こなす白衣は、彼女の人柄を物語っている。
「その子は、皮膚がハチャメチャに硬いらしーよ、パーちゃんが言ってた」
「パー?」
「あの、ほら、モルガンの」
白衣の女性はゼイの左胸に手を当てる。
「鼓動確認!心臓は動くんだねぇ」
白衣の女性は微笑み絶やさず、ゼイに笑顔を向ける。
どこか楽しそうに、興味深そうに。
看護師は怪訝そうに喋った。
「そりゃ動いてなきゃ死んでますよ」
「そーなんだけど、この子に限ってそうじゃないのよ、あんまし色々言えないんだけどね」
「そうなですね」
「そんじゃあ、右腕ちゃん、この子、台まで」
「了解です」
ゼイは機械を外され、また看護師に黙ってついていく。
たどり着いた先では、白衣の女性がハンマーときりを持って待ち構えていた。
「はーい拘束してー」
ゼイは、されるがままに拘束され、右腕だけの前に白衣の女性が座る。
「じゅーじかー、ドーン!」
白衣の女性が叫び終わる頃にはハンマーは振り下ろされており、きりがゼイの肌にささっていた。
「痛い?」
白衣の女性がゼイの顔を覗き込んでくる。
「いえ、あんまり」
「了解、じゃ、しばらく待っててね」
白衣の女性が小さなホースを取り出し、きりを取り出してホースを入れる。
ホースがゼイに近いところから順に赤く染まり、やがて見えなくなるところまで赤くなった。
右腕の当たりに異様な違和感。
血がなくなっていく、抵抗を示唆する脳の回路。
無駄に、心音が上がる。
ベルがまた、眼の前に現れたかのようなーー。
「はーい、お疲れでーす」
ホースが抜かれる。
「汗出てるけど、だいじょぶそ?」
「え?」
ゼイが額に触れて見ると、気持ち悪い冷たさをまとった液体が手についた。
「んじゃ、結果発表までしばらくお待ちー」
白衣の女性が、子馬の尻尾のような髪の毛を揺らしながら左右に揺れていると、看護師が喋り出した。
「ラッキーでしたね」
「ん〜?何が?」
「健康診断しなくても、彼の体に異常が出なさそうで」
「2か月くらに経ってから言ってよねー」
壁の一部が開き、看護師がそこに案内した。
着くと、壁が締まる。
完全な個室。
眼前には、巨大なスクリーン。
上から、映し出されて行く。
『ウサギ』0%、『コウモリ』0%、『ペンギン』0%、『スズメ』0%、『ネコ』0%、『ビーバー』0%、『キツツキ』0%、『サル』、『マナティ』、『フクロウ』、『クジラ』、『アフリカトガリネズミ』、『ゾウ』、、、、
すべての横に、0の数字、そして、最後に表示された。
『その他』100%
「は?」
ゼイは不可解な画面の理解を諦めた。
そしてしばらくすると、部屋の一部があいた。
そこから外に出る。
「ゼイ!」
弾むような声。
揺れる二本の髪の束。
チェロ・ドライトは、ゼイに正面から抱きついた。
「おお、」
ゼイはびくともせずチェロを受け止めた。
「どうだった!?」
「どうだったって、、何だっけか、『その他』に100%」
「ええ?まぁ、ゼイは元から強いし、どうにでもなるわね、ゼイがカプセルなんか使えちゃったら、私勝ち目なんてないもの」
少し早口で、チェロがまくしたてる。
後ろから声が聞こえる。
「勝ち目なんてねぇだぁ?負けることなんてさらさら考えてねぇようなのがお前がぁ?」
ノートルと呼ばれていた男からの声だった。
チェロはビクッと体を震わせたあと、胸に手を当てて振り返った。
「うるさいわね」
チェロから高くない、低めの、それでも高い声が発せられる。
「学校首席、親は第四の隊長、そんなのがよく勝ち目がないなんて言えたよな?」
「僻んでる暇があったら自分の結果と向き合いなさいよ、ネコカラス」
「ダセーから言うなっつったろ、俺はチーターなの!」
「だから向き合いなさいって言ってるのよ!」
「仲、いいんだな」
ゼイの一言に、場の空気が凍りつく。
「オメェの目ぇぶっ壊れてんじゃねぇ?」
「ふざけたこと言わないでよ!ゼイ!」
同時に二つの声に挟まれて、ゼイはこれ以上言葉を口にしようとすら思わなかった。




