第八話
ベルの首から溢れた血の糸は、複雑に絡み合い、人間に酷似した形へと姿を変えた。
しかし、その体は脈打つ血液のみで構成されており、人間を感じさせるものは何一つ残っていなかった。
その上、手足も細く、身長も子どもと同じくらいであった。
「何だぁ、あの人のなり損ないみてぇなのは」
血の人形には、パイフの愚痴など届いていない。
血の人形はベルの方を向いて、近づいていくと、ベルを蹴り飛ばした。
一発、もう一発と、ベルを踏みつける。
そして、頭があった場所から手を入れる。
血の人形の手が大きく膨れ上がり、急激にしぼむと同時に、胴や頭、脚が膨れ上がり、成人した男と同じ程にまで大きくなった。
しかし、それの姿形はベルよりも明らかに背が高かった。
血の人形の奥から、声が聞こえた。
「すげぇーなー」
低く響く声。
狼の顔をした面を頭から被り、顔を隠してはいるものの、海パン一張羅が引き立てるその鍛え上げられた体は自己主張を極めている。
「こんなことにもなんのか」
男は軽い足取りで血の人形に近づく。
辺りに血が飛び散る。
血の人形は男の拳によって腹に穴を開けられていた。
「まだ死んじゃ、ねぇだろっ」
男は拳を振って人形の頭を吹き飛ばした。
拳のあたっていないところまで、えぐれている。
破壊された血の人形が吹き出した血は、小さな丸い血の球となって地面から剥がれ、元の体に戻る。
完全に元の姿形に戻った血の人形は飛び退き、背中から翼を生やした。
「飛ばれるとメンドーくせーんだよな」
血の人形が飛び立つ。
血の人形の脚がえぐれる。
血の人形の立っていた場所には血溜まりと、男の拳。
血の人形は巨大な男の後に飛び降り、手の形を鋭利に変化させて攻撃した。
それは男の背中から生えた赤い腕によって握りつぶされた。
男の指の隙間から、血が溢れて飛び散る。
血の人形はそのまま地面に残る血溜まりごと血の糸へと変貌し、男の体を包んだ。
一時の静寂。
「ぃ、今だ!」
パイフが叫ぶと『フクロウ』が男を内包した血の糸に飛びつく。
しかし、血の糸の裏にいる男から赤い腕が五本ほど、胸のあたりから血の糸を引きちぎって飛び出した。
赤い5本の腕は絡み合い、つながりあって一本の巨大な腕となった。
腕は『フクロウ』の足を捕まえて地上に引き下ろそうとしたが、『フクロウ』の上からシャンセンが飛び降りて、その巨大な腕を叩いて潰した。
『フクロウ』は上空に逃げ出した。
男の巨大な腕は、ゆっくりと再生している。
男はシャンセンを睨みつける。
「おっさん、うぜぇな」
男の拳にシャンセンの鈍器がぶつかる。
同時に男の体から血の糸が剥がれる。
男の巨大な腕が引っ込み、右腕の近くから生え、巨大な赤い右腕ができる。
シャンセン、左側に回り込む。
シャンセンの鈍器が男の拳とぶつかる。
男は鈍器を掴もうと手をのばす。
シャンセンはその手を鈍器を持たない手で握り返す。
男の腕を鈍器が襲う。
「ぐぅわ!痛ってぇ!」
男は叫び、シャンセンを蹴り飛ばした。
血の糸は空中で槍を形作り、落下した。
男は足から一本腕を生やして飛び退き、距離を取った。
血の槍は地面に付く前に分散し男に向かう。
男は巨大な右手で振り払う。
地面を蹴り、大きく『フクロウ』の左へ回り込む。
右手で地面を叩く。
地面の揺れとともに跳ね上がり、『フクロウ』の後ろに回り込む。
『フクロウ』は自らに飛来する血の糸を足の鉤爪で器用に引き裂いた。
「無防備な」
左側を晒す男に『フクロウ』の背中からシャンセンが飛びつき、殴りかかる。
シャンセンの鈍器を男の脇腹から生えた腕が掴む。
シャンセンは咄嗟に鈍器から腕を離し、男の顔面を、殴る。
男は鈍器を降る。
巨大な銃弾が男とシャンセンの間を貫く。
シャンセンは飛び退いたが、男は右手と腕を一本撃ち抜かれ、落下した。
落下し、地面に直撃すると、男の体から黒い墨のような、霧のようなものが発生する。
その黒い霧は周囲を埋め尽くし、夜を作り出した。
ー♢ー♢ー♢ー
「誰だ!」
拳銃を向けられるゼイ。
「チェロ・ドライトと、その従者よ!」
チェロは声を張り上げ、拳銃を向ける者に訴えた。
「何か、証拠となるものだけございますれば」
「もう!持ってないわ!」
「では、お通しすることはできません」
兵士が銃を握る手には、汗が含まれていた。
「なんでよ、、もぅ、、」
途方に暮れるチェロに、ゼイが耳打ちをする。
「さっきの煙突から戻るっていうのは?」
「うん、、」
チェロは右斜め下を向いてしまったが、元の場所に戻ることにした。
「また時間かかるじゃない」
「お前は乗ってるだけだろ」
「うるさいわね!」




