表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪獣  作者: かめのこ
1/6

前話 男

ー2046年ー

 人工衛星消滅事件

ー2048年ー

 月面探査機返還事件

ー同年ー

 『ライオン』パニック発生

ー同年ー

 AI発足

ー♢ー♢ー♢ー


「あと3秒です」

「りょーかい」


 草が潰されて、足跡が残る。

 前を走る屈強な男は、腰のあたりから拳銃と、赤と白のカプセルを取り出した。


「ちょっと、離れてな」

「わかりました」


 後ろを走っていた女は、了承と同時に森の別方向に消えていった。

 腹を揺らす轟音が鳴り響いている。

 落ちてくるものの、熱が、男の肌を焼く。

 男はカプセルを口にほおりこんで、空を見上げて嚥下する。


「こいや、卵」


 男は口から銃弾を出し、拳銃に装填した。

 一歩後ろに引く。

 刹那、周囲が赤く染まる。

 木が根本から揺れ、男は目を閉じた。

 草葉は揃って音の反対を向いた。


「ギ、ウゥゥ、、」


 落ちてきた青いものから、それはでてきた。

 産声に似合わぬ人工的なほどの巨体を縦にしている、大きなエリマキを持った、それが。


「先手、必勝!」


 物が落ちてきた衝撃よりは遥かに弱く、音の威力も劣る銃声。

 放たれた銃弾は、不自然に、膨らんでいく。

 立ったままの『エリマキ』のアタマに、銃弾が直撃する。

 『エリマキ』は、脚をふらつかせ、終いに大きく転んだ。


「おーい!」


 男の叫びに呼応して、森の何処かから網が現れて、『エリマキ』を覆った。


「終わったな、、」


 男は『エリマキ』の上に立って、煙草に火をつけた。

 男が口に入れる直前に、煙草から火が消えた。


「んぁ?」


 男は口から煙草を取りだす。


「逃げてください!『トンボ』です!」


 通信機がうるさくなる。

 男はお構いなしに煙草に火をつけようとするが、ライターがつかない。


「チッ、ついてねぇな」


 男は煙草とライターを腰のあたりにしまった。

 なにか、木がうるさい。

 ぶつかりあっているような。

 そんな音がする。

 男は気になって、音のする方を向いた。


「んだ?」


 激しさを増す木の喧騒に、男の眉が上がる。

 すると、木が、飛んできた。

 男が目を大きく開くと、道と奴が、見えた。

 眼の前にいる、奴。

 巨大な、『トンボ』が通ってきた道。

 男は、殆ど死んだようなものだった。

 しかし、次目を開けたときには眼前の『トンボ』は、視界から消滅した。

 『トンボ』が消えたときの爆音も、男には聞こえていなかった。

 瞳孔が揺れる。


「どうなってんだ、」


 『トンボ』がいたはずのその場所にはTシャツに短パンの少年が見える。

 男は目を擦って、数度、瞬きを繰り返した。

 でもやはり、見える。

 『トンボ』に比べると、とても小さい、平均的な少年が。

 男の心臓の音は、耳まで届いていた。

 一歩、後ろに下がった。


「く、、かぁ、、ふぅ、」


 息が、一気に漏れる。


「煙草を、すわねぇと、はは」


 男は見た現象は、自身の禁断症状だと思った。

 『トンボ』が消滅するのも、少年がここにいることも、おかしいからだ。

 男が煙草に夢中になっている間、少年は、男の方をそっと見たあとに、何もせず、蹴り飛ばしたものの方に歩いていった。


「、、、ふ、うぅ、」


 落ち着かないように煙草を吸って、少し落ち着いた男は、通信機を手に取り、状況を簡潔に伝えた。

 しかし、あまりに馬鹿げていたので、


「ふざけてる暇があれば早く帰ってきてください!『トンボ』が今どこにいるか、わかってないんです!」


 と、通勤機が叫びだす。

 煙草がもったいないと思った男は、通信機を握りつぶして、ゆっくりと、『トンボ』のいた道の方に歩き出した。 


 『トンボ』のいた場所から左を見ると、『トンボ』が腹を上にして動かなくなっているのが見えた。

 遠くに。

 底にあったはずの木も、草も、男の目には映らない。

 男は足を叩いて、大きく息を吐いた。

 むず痒い感覚に耐え、得体のしれない少年に近づいていく。

 少年がこちらに気づいて少年の方から来てくれることを望んで、手を降ろうとしたが、手が、上がらなかった。


「クソッ、、」


 男はまた一本、煙草を吸った。


「レオス、、アナレイア、、、リリー、、」


 男は、勇気を唱えた。

 何度も。

 もう、初めて見たときより遠く離れてしまった少年は、動かなくなった『トンボ』の近くで止まっている。

 男は、煙草を吸った。

 体ごと、浮き上がってしまいそうなほど。

 途中から、何も考えずに、歩いていた。

 距離の感覚なんて、とうにうしなわれていた。

 突然、なにか冷たいものに、正面からぶつかった。


「ンァ?」


 近すぎて何かわからず、数歩後ろに下がって見てみると。

 それは『トンボ』だった。

 男は振り返って走った。

 やけに速かった。

 残っていた木の根に躓いて、大きくこけた。

 小さな子供の時以来に。


「9*8#@!!-@.¥@43M」


 突然喋りかけられ、すがるような思いで顔を上げた。

 どこかで、聞いたことあるような気がした言葉だったから。


「ぁあ。あ、。」


 目が開かれ、動悸が激しくなる。

 息が荒く、立とうとしても、手も、足も上がらない。

 男は、頭を下げた。

 少年が見えないように。


「?9#8(@#853.9*8#@!#6@;343!@8!9m」

「あ、ぁあ、」


 声が出ない。

 顎が、舌が拒絶する。

 足が震える、むず痒くなる。

 全身を突っ伏したまま、少しずつ後ろに下がる。


「57(@43537&9(3!@8!9(@;@m」


 突然、少年の手がこちらに伸びてくる。


「うわぁ、、。」


 叫べずに、か弱い声だけがでた。

 頭に、柔らかい温もりが生まれた。

 男は、目をつぶって、過去に浸った。

 久しぶりに、煙草以外で息をした。


「お、ぉおい、」


 土を握りしめ、少年の方を向く。

 優しい顔を、していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ