契約を交わす(3)
「あの……拙者が助けると言ってくださってましたか?」
「ああ」
「え……本当に助けてくださるんですか?」
「ああ」
「ここから出られるんですか!?」
「ああ」
ティナの質問にレヴィは何度も頷く。
「だが、契約をしてくれたらな」
「契約……」
ティナは首を傾げながら、レヴィに尋ねた。
すると、レヴィは指を二つ立てて、ティナに説明する。
「これから言う二つの条件を守るだけでいい」
「二つの条件?」
「一つ目、拙者に一日一食以上スイーツを提供すること」
ティナは一つ頷く。
「二つ目、この国にスイーツを普及させること」
レヴィから提示された二つの条件を聞き、ティナは思った。
「……難しくないですか?」
「どこからどう見ても、いや、どう考えても簡単だ。スイーツを毎日提供して、スイーツを普及させればいいだけだ」
なんて簡単に言うのだろうか、とティナは感じた。
スイーツを作る手間を知っているからこそ、その難しさがわかった。
「私、今友人に毒を盛ったと疑われて、牢屋に入れられているんですが……」
「ああ、そういえばお前が気を失っている時にうなされながら、そう呟いていたな」
「じゃあ、どう考えても無理じゃ……」
「だから、契約で助ける。契約をしてくれたら、拙者が望みを一つ叶えよう」
ティナはレヴィの言葉を聞いて、考え込んだ。
(望みを叶える……)
「じゃあ、時間を戻してメアリを助けることもできますか?」
「ああ、もちろんだ」
(もし、メアリのご両親が私の言葉を信じてくれなかったら、一生牢屋のままかもしれない。ううん、もしかしたら話も聞いてもらえないかもしれない。なら、この事件を止めたい。メアリが毒のスコーンを食べないようにする。メアリの苦しい姿、あんな顔、見たくない。苦しんでほしくない)
メアリに毒は命に別状はないが、毒は治療が遅れれば後遺症も残ると言われている。
(もし今回のことでメアリに後遺症が残ってしまったら……)
ティナはレヴィの瞳を見つめると、覚悟を持って言う。
「契約、してください!」
「いいのか?」
「はい、もう後悔はしたくない。私は、メアリを救いたいです。それに、この事件の手がかりはあるんです」
「ほお」
ティナは牢屋に連れて来られる前、あるメイドと目が合った。
(彼女は確か、メアリの家に遊びに来るとき、よく見かけてた。でも、あの時、私を見てひどく青ざめた表情をしていた。きっと何か知ってる)
ティナはレヴィに契約の最終確認をおこなった。
「契約をもし破ってしまったら、どうなりますか?」
「死ぬ。お前も、拙者もだ」
その言葉がティナの心に重くのしかかった。
「だから、なんとしてでも契約を破るな。そして、必ず契約を守ってみせろ」
ティナは心の中であまりにも重い失敗の代償を思い、考え込んでしまう。自分だけならともかく、他人も巻き込んでしまうというところに、なんとも怖さを感じた。
ティナは手を胸の前に当てて気持ちを落ち着かせると、真っすぐにレヴィを見て言った。
「お願いです! あなたの力を貸してください!」
「契約するか?」
「はい、私はあなたと契約して、自分の運命を変えたいっ!」
「契約成立だな。では、お前に契約の力を与える。お前が見事に未来を掴むことができれば、また会えるだろう」
「え……うわっ!!」
契約が成立したと同時にティナの視界は歪んでいく。段々目の前にいるレヴィがかすみ、周りの景色もぐらついていく。
そうして彼女は意識を失った──。
「ん……」
気づくとそこは、暗くて狭い地下牢ではなく、どこかの庭園のようであった。日の光が目に入り、思わずティナは目をつぶる。
「眩しい……」
ようやく目が慣れてきたようで、少しずつ瞼を上げていく。
「え……」
そこは、あの日のお茶会の庭園だった。