9.Sideヴェル 九尾
婚約自体は、僕が生まれてすぐに決まった。
侯爵家の8歳年上の娘だった彼女との婚姻。
僕が本来は、家系図の端っこに名前だけ辛うじて記される、後世の人に「ああ、この王様にはこんな息子がいたのか」と驚かれるような、吹けば飛ぶような存在だった事もあり、本当になんとなく、良い感じにフリーだった彼女があてがわれただけである。
狐獣人の、尻尾が9本生えた元気な憧れのお姉さん。というのが、僕が物心ついてからの彼女の印象だ。
ただ、彼女は元気だった。本当に元気過ぎた。
奇しくも今の僕と同じ12歳頃、軍の宣伝に影響されて、戦闘機乗りになりたい!といって、家を飛び出して空軍の士官学校に入った彼女は、あれよあれよと才能を発揮し、若くしていっぱしの戦闘機乗りに成り上がった。
そして、その後の内戦や、ドラコニアとの戦争でも数多くの戦果を立てて、ヴェル空軍屈指のエースとなると一体誰が想像しただろうか。
この国が傀儡になった後も、その腕は殺すに惜しいと、報復で戦犯として裁かれる様な事も無く、引き続き空軍でドラコニアの意地悪な竜達の尖兵になっている。本人的には、上に立つ人が誰であろうと、空が飛べるのであればどうでも良いや。というスタンスなのは肝が座っているというか、なんというか……。
とにかく、そんな最愛の許婚が今日も無事に帰って来た事に歓喜した僕は、待合室として指定されていた部屋を抜け出し、機体格納庫に直行した。この基地の構造は、何度も訪れて把握している。
果たして、彼女は、格納庫で整備兵と話していた。狐色の髪と、藍色の瞳は間違えるはずも無い。
「ハンナー! 会いたかった!」
待ちきれずに後ろから彼女に抱き着いた。もふもふな九本の狐の尾に包まれる感覚は中々に気持ちがいい。
「エルネスト様?! 来ておられたのですか」
ハンナ・ヴァルカン。9本の尾を持つ狐獣人にして、僕のお嫁さん。
彼女は、突然現れた婚約者に抱き着かれて、最初は驚いていたが、満更でも無さそうだった。
「この後、お茶会の予定だったよね。遅いから、迎えにきた」
「すいません。本来は非番ですのに、突然、強行偵察の任務が入ってしまいました」
「誰だよ。僕の可愛いお嫁さんに休日出勤させたのは。事と次第によっては、僕の権限でクビにするが……」
「ドラコニア軍からの直接の命令だったので断る訳にもいかず……」
「…………それなら仕方ないね」
繰り返し言うが、悔しいがドラコニアの連中には逆らえない。僕の代わりなんて、それこそいくらでもいるのだ。それにしてもドラコニアめ、危険な仕事をいつも僕達に押し付けやがって……。傀儡国の悲しい所だ。一応、ハンナの階級は大佐。結構偉いんだけどなぁ。
「コホン……大佐。お取込み中なら、また今度にしますか?」
僕達がいちゃついているのを見せつけられたライオン耳の整備兵さんは、少し気まずそうに声をかけてきた。
「いや。このまま続けよう。……申し訳ありません、殿下。お茶会はもう少し待っていただけますか? 色々と彼と仕事の話もありますし。……それに、汗臭いまま、殿下とお話するのは失礼にあたりましょう」
「むむむ……」
まぁ、無理を言っているのはこちらなのだ。しぶしぶ、引き下がる事にする。
「お詫びといってはなんですが、今日は実戦であれば落とせていた敵機と遭遇しました。面白い話を聞かせてあげましょう」
「それならば良し!」
僕はそう言うと、元々いた部屋に向けて踵を返した。
振り返り、ハンナの愛馬を眺めた。ドラコニアの主力機『MF-30 スティングレー』。ダークグレーの機体の翼端は赤色で、尾翼には、パーソナルマークである、実家の紋章をデフォルメした狐のエンブレムが描かれている。更に彼女の機体には特注のカスタマイズとして、機体の背中に巨大な37mmレールキャノンがついていた。
人呼んで『カノーネン・フォーゲルカスタム』。
元になったのは憎きドラコニアの機体だ。この音速で走る馬が、僕の憧れのお姉さんをどこかに連れていってしまわなければ良いのだが……。
なんで羊と九尾の狐の組み合わせにしたかって? そりゃ作者の東方の推しカプが(ry
ハンナのモデルはwwⅡのドイツ空軍のトップエース、『魔王』ことハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐。名前とか愛機に大口径砲積んでるとか割とまんまですね。
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