70.エピローグ 終わりと始まり
それから、しばらく時間が経った。
ドラコニアおよびヴェルとレーヴェンの間では、改めて講和条約が結ばれた。レーヴェンも、最後の無人機騒動での被害は大きいし、ドラコニアに至っては、戦争を指導した皇帝が瓦礫に巻き込まれて死んでいた事が分かった上、いい加減下っ端の間では厭戦気分が広まっていた事もあり、そろそろ手打ちにしたかったらしい。一応、こちらの判定勝ち。という事で良いだろうか。
講和に伴い、レーヴェンは開戦後に制圧した占領地の返還と、ヴェルの属州からの解放を要求。ドラコニアもしぶしぶこれを飲み、ヴェルは緩衝地帯として独立を許された。
こうして戦争は終わったが、大変なのはこれからである。破壊された建物を直し、荒らされた農地を再度開墾し、亡くなった者達の弔いもしてやらねばならない。
それに、お金だって大量に使った。ポンポン撃っていたミサイルだって、本来ならかなり高額なものだ。国内の経済だってボロボロである。レーヴェンもドラコニアもしばらくは貧乏生活というわけだ。賠償金も取れなかったし。例外的に軍事系の企業は儲かっただろうが、逆に言えば戦後に需要は減る訳で、長い目で見れば彼らも儲けはトントンくらいだろう。
結局、全員平等に不幸になりました。という訳。
なんというか、戦争なんてやるもんじゃない。本当に。
勝ったぞ万歳! ハッピーエンド! なんてのはフィクションの中だけで、現実はいつも世知辛いのだ。
さて、私は基地の兵舎の一角。休憩用のスペースで新聞を流し読みしている。記事に書いてあるのは、独立したヴェル王国の事。正式にエルネスト王子が即位し、独立宣言を行ったらしい。あの時、救った少年が元気に演説をする姿を見て、なんとなくホッとした気分になった。
傍には、婚約者である九尾の狐、血まみれ狐こと、ハンナ・ヴァルカン大佐もいる。彼女は相変わらず空軍で空を飛んでいるらしい。本質的には彼女は私達と同類なのだろう。空を飛ぶのが大好きな、飛行機大好き人間。
ともあれ、彼らが頑張らなければならないのは、これからである。独立したとはいえ、ヴェルだって国内外に問題は山積みのはずだ。心の中で私はエールを送った。
今回の戦争で国内外を駆けずり回っていた姉は、少し、休暇をもらったらしい。色々と疲れたらしいので、しばらく、リフレッシュするとの事だ。それと、私達に影響されたのか、彼女も恋人が欲しいとぼやいており、もしかしたら恋人探しでもするつもりなのかもしれない。
私達ネクロノミコン隊の面々はというと、そのまま軍人を続けている。戦後で軍も金が無いし、年金と退職金をもらって退役する選択もできたのだが、私達はその道は取らなかった。理由は明白。結局の所、部隊の面々が私を含めて全員、愛すべき飛行機馬鹿達だったから。結局空を飛ぶのが好きなのだ。あれだけの死闘を潜り抜けたにも関わらず、戦闘機から降りるのは、もう少し経ってからと言って、今日も空を飛んでいる。
現在の仕事は戦争の生き残りとして、その経験と技量を新人達に伝える事。最近はもっぱら、新兵の教育係を任されていた。
「おーい、アホの『ストライク』。今度来る新人の情報。目を通しておいて」
「アホは余計よ。『クロスボー』」
全員残っているという事は、『クロスボー』との腐れ縁もまだまだ続くという事である。今も私の読んでいた新聞を取り上げて、代わりに、新兵達の情報が載った書類を差し出してきた。
「ふーむ。今度はこいつらを鍛え上げれば良いのね」
「程々にね。『シルバー』と貴女は見込みのある新人を見つけると、少し可愛がり過ぎる悪癖があるから。最近は軍隊もコンプライアンスってものがあるんだから」
「別にパワハラやセクハラしている訳じゃないし、良いでしょ。少し、模擬戦で容赦なく追い回すだけで。あんまり温くすると実戦で役に立たないわよ」
「何事も過ぎたるは及ばざるがごとしって言いたいの」
そう言って、『クロスボー』は自販機で、スポーツドリンクを買った。こんなのだが、何だかんだで私達が行方不明になった時は本気で心配してくれていた、と以前『バグパイプ』が言っていた。何だかんだ、良い奴だとは思う。未だに『シルバー』に未練があるのか、粉をかけてくるのはどうかと思うが。
「それより、『シルバー』から、言付けがあるわよ」
「『シルバー』が?」
「今日、勤務が終わったら、夜に9番格納庫の裏に来てくれって」
「格納庫裏に?」
9番格納庫は、私達の機体が置いてある所である。妙な所に呼び出すものだ。何かの任務だろうか。しかも夜って。
「何かやらかしたんじゃない?」
「別に変な事はしてないわよ」
「ま、良いわ。確かに伝えたわよ」
***
というわけでやって来た格納庫裏。既に日は暮れていて、とばりが下りている。
整備兵達も仕事が終わったのか、既に、格納庫の電灯は落ちていた。中では愛機である『フライングダンサー』が眠っている。あの無人機騒動で、八頭の竜に触手で操られたが、彼女を倒した後はまた問題無く飛べるようになったので、引き続き愛機にしている。
私が行くと、既にアナベルが待っていた。
着ている軍服は正式な礼装のもので、士気に関わるから当たり前だが、この手の用途の軍服は格好良く作られている。アナベルの顔が良い事もあって、思わずうっとりしてしまった。
「ずいぶん大仰な格好ですね。どうしましたか?」
「……いやね。エールに伝えたい事があって」
そこまで言って、彼は押し黙ってしまった。
……さて、どうしたものかと、彼の隣に立つ。何気なく空を見ると、レッドリーは田舎の街という事もあり、星が綺麗に見える。彼も釣られて空を見た。なかなかロマンチックなシチュエーションだ。
「……思えば昔から、こうして並んで空を眺めていたなぁ」
「懐かしいですねぇ。子供の頃は、あなたに付き合わされて一日中空を眺めていたものです」
ふと、空を2機の戦闘機が横切った。スクランブル発進した、この基地の戦友の機体だった。昔と同じく、2人でジェット戦闘機が飛んでいるのを眺める。
「…………もしエールが良いのなら、一生、こうして隣に居て欲しい」
ふと、アナベルがそんな事を言った。
「なんですか。急にそんなロマンチックな事を言って」
「別に思い付きで言った訳じゃない。エール、空じゃなくてこちらを見てくれ」
そう言ったアナベルを見ると、彼は改まった様にかしずいた。
そして、私に小さな箱を差し出して来る。
え……? これはもしかしてもしかすると……。
「俺と結婚して欲しい」
彼がそう言うと同時に、箱の中に入っていたのは指輪であった。輝きでいえば、戦闘機のアフターバーナー炎に勝るとも劣らない。
「……そう来ましたか」
「これからも国際情勢は混沌としているだろうからなぁ。少しでも落ち着いているうちに、結ばれたいと思ってな」
私は躊躇いなく、そして恭しく、それを受け取る。
「私は、あなた様の乳きょうだいにして、忠臣にして、相棒にして、恋人。まさか断るなんてする訳がありません。……喜んでお受けいたします」
人類はどうしようもなく愚かだ。これからも、国際情勢は混沌としたままだろう。戦争だってまた起こるかもしれない。
でも、彼となら、きっと乗り越えられる。
私はそう信じられる。そのまま私は彼の唇にキスを落とした。
読了、お疲れさまでした。これにて、本作は完結です。いやぁ、改めて読み返すとエースコンバット7と東方の影響が強い……。好きなタイトルからは、つい影響を受けてしまいます。
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