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69.回復魔法

「う……うん……?」


「起きられましたか。色々聞きたい事はありますが、ひとまず無事で何よりです」


 意識を失っていた私、エール・シンファクシは、何者かの声で急速な覚醒をした。……確か私は、八頭の竜と戦って……半死半生の所で、突然壁が崩れて、そこからレールキャノンが飛んできて……。


 私に話しかけてきたのは、ハイエナ耳の獣人だった。ヴェル空軍のパイロットスーツを着ている。……すると、私は捕虜になったのか? 


 いや、場所は先程まで戦っていた塔の中だ。まだ、私は移送されていないとみた。


「……アナベルは?」


「あ、まだ立っちゃだめですよ! 今軍医がヘリボーン部隊と共に来ます!」


 ハイエナ耳獣人の声を無視し、私は起き上がった。身体は悲鳴をあげているが、それでも主を、そして恋人を放ってはおけない。


 改めて見ると、部屋は凄まじい惨状だった。レールキャノンを撃ち込まれた事で、ズタズタになっている。そんな中で、近くでアナベルともう1人、小柄な少年が横たえられているのを見つけた。あれは、ヴェル王国のエルネスト王子だろう。


 王子の方には、九本の尾を持つ狐耳の獣人の女性が寄り添って、声をかけている。


「殿下! 殿下! 目を覚ましてください!」


 2人とも意識は無いようで、ぐったりとしていた。私は2人に近づき、脈を診る。どちらもまだ息はある。ひとまずは安心するが、まだ油断は出来ない。


「貴女は……?」


 狐耳の女性は警戒しつつ、そう聞いてくる。エルネスト王子を心配する狐耳の九尾……。もしかしたら、彼女は我らがライバルの血まみれ狐、ハンナ・ヴァルカン大佐なのかもしれない。そう言えば、前に見た雑誌に載っていた顔写真とそっくりだ。恐らく、彼女は血まみれ狐その人……。


 なんという偶然か。こうして生身で彼女と会う事になるとは……。


 だが、今の彼女は、泣く子も黙るエースパイロットではなく、許婚の心配をする1人の女性だった。隊長たちの仇ではあるが、その恨みはあまり湧いてこない。そもそも、彼女も私達も軍人なのだ。お互いに戦場でベストを尽くした結果があれなのだから、相手を恨むのは筋違いである。


 私は、回復魔法を2人に使う。


 弔脂(ちょうし)によって増幅された回復魔法は、通常のものより高い効果を発揮するのはご存知の通り。2人の傷はみるみるふさがった。


 そして、アナベルとエルネスト王子が目を覚ます。まぶたを開ける瞬間すら一緒であった。


「……エール?」


「ハンナ? ハンナだよね?」


 2人の男はお互いの恋人を見ると、ゆっくりと起き上がった。ひとまず、命に別状はなさそうだ。


「……貴女は一体?」


 ハンナ・ヴァルカンが私を見ながら、そう言う。私はニコリと微笑んだ。


「なに、ただの竜のなりそこないの吉弔ですよ」


「……以前、貴女のお姉様に会った事があるかも。確か、妹が空軍にいるとか言っていました。確か名前は、ウィング・シンファクシ」


「ああ、まさに姉です。……貴女と何度か空の上で戦った事もあります。なんというか、奇遇ですね」


 意外な所でライバルとの繋がりが発覚し、私は本当に奇遇を感じずにはいられなかった。


「あなた達姉妹には恩が出来ましたね……」


「いえ。あの時壁をぶち抜いてくれた事で、十分。恩義分は働いてくれましたよ」


 そう言いつつ、私は、アナベルの方に顔を向けた。


「無事で何よりです。アナベル」


「ああ……エールか。回復魔法をかけてくれたのか? 痛みがだいぶ引いた」


「はい。これでも忠臣を気取っていますから。乳兄弟の危機には全力で手を尽くしますとも」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 ひとまず、アナベルの方も無事みたいだ。エルネスト王子の方もハンナ嬢に抱き付いている。とりあえずハッピーエンド、という事か。


 そして、私は元凶になった八頭の竜を探す。すると、少し離れた位置に死体袋(シュラウド)があった。私はそこまで行き、袋を開けた。中に入っていたのは、黒髪の竜人、フローラ・ネックその人だった。既に硬直が始まっていて、生きている様には見えない。


 本当にあっさりとした最期だった。レールガンに打ち抜かれるとは。


 だが、エルネスト王子を取り込み、確かに彼女は強化はされていたのだ。もしも、真の番であるアナベルを取り込んでいたら、いよいよ手が付けられなくなっていたのではないかとも思う。実際、無人機の集団を量産するまでは出来ていたのだ。


「……」


 いつの間にか立ち上がったアナベルが複雑そうな顔をして、死体を見ている。


「この力を彼女が正しい方に使っていれば……そう思うよ」


「前世に縛られていたんですよ、彼女も」


 私は丁寧に、死体袋(シュラウド)のファスナーを締めた。


「人類を管理しよう、なんて傲慢な考えを、それも2度も考えてしまったのが、彼女の運の尽きですね。そんな事、誰も頼んでないっていうのに」


「戦争戦争戦争、な人類に嫌気がさす気分は分かるけどな」


「それで数を減らして、適切に管理しよう、なんて本末転倒も良い所です。まぁ、ここで止められて良かったですね。……じゃあね、今度転生する時はもう少し謙虚な性格に生まれてくる事ね」


 私は、そう言いつつ、死体袋(シュラウド)の前で軽く手を合わせた。



もうちっとだけ続くんじゃ

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