67.死闘
塔の中では私、エール・シンファクシを含め、3匹の竜による死闘が続いていた。八頭の竜は背中から生えた無数の触手を槍の様に尖らせて、連続で突きを繰り出してくるのに対し、私はアナベルの前に出て、背中の厚い甲羅でそれを弾きながら、アナベルが後衛からブレスを放つ。
だが、ブレスは当たってはいるが、大したダメージにはなっていない様だ。
「無駄ですよ。饕餮の血で強化された私はブレス程度じゃ、傷はつかない」
八頭の竜はそう言うと、無数の触手を放ってくる。何本もの触手に突かれて、流石に私も痛みに顔を歪ませた。
「ぐぅ……!」
「エール!」
「大丈夫! それよりも、もっと火力を!」
そう言うが、確実にダメージは溜まっており、ついには痛みに負けて膝をついてしまった。
「さて、頑強な亀もどきさんはこれで終わり。後はあなただけです、聖女様」
八頭の竜はアナベルに近づいてくる。このままでは、彼までエルネスト王子の様に取り込まれてしまう。そうなったら、いよいよコイツを止める事は出来なくなるし、それ以上に、私のプライドが許さない。
「……亀もどきって言うな……!! 私は誇り高き吉弔だ! 甲羅を持った頑健な四つ足の竜だ!」
自身に回復魔法をかけて、無理矢理立ち上がる。弔脂によって高められた回復魔法は、ひび割れた甲羅の傷まで回復させる。
「む……しつこい」
「がはっ!?」
八頭の竜は、そんな私に触手を何十本と突き立てた。何本かは甲羅を貫通し、口からは血が噴き出す。瞬時に回復魔法を使って、生命維持はしたものの、それでも苦痛までは取り去れない。
「エール!!」
「おっと、聖女様。チェックメイトです。そこから動かないでください」
触手を私の首に絡め持ち上げながら、八頭の竜は言う。
「可愛い恋人が絞首刑になるところは見たくないでしょう? 私の番になるというのなら、彼女は放してあげましょう。大人しく取り込まれちゃってください」
触手が何本も展開され、アナベルに向けて迫る。私は、残った力で叫んだ。
「駄目です! こんな邪悪な奴の番になっちゃダメです! 逃げて、アナベル!」
アナベルは、飛んでくる触手を器用にブレスで迎撃した。エースだけあって、大した動体視力だ。
だが、多勢に無勢。すぐに触手に囲まれ。彼も拘束されてしまった。アナベルを捕まえた事で私はどうでもよくなったのか、地面に突き落とされた。
痛い、痛い、痛い。全身が痛い。
それでも、意識を失う訳には訳にはいかない。朦朧とする精神を振るいたせて、何とか立ち上がったが、そこで目に入ったのは、美しい銀色の竜が全身を触手に拘束された姿だった。
「さーて、聖女様を本来の番から奪おうとした泥棒亀さんには、彼が取り込まれる所でも見物しててもらいましょうか」
煽る様な口調で八頭の竜が言う。ああ、いけない。このままでは、彼はこの邪竜に吸収されてしまう。あの王子の様に、何十本も棘を突き刺されて。
ブレスを吐こうにも、もう体力も限界に近い。辛うじて、小さな小さな火球は飛ばせたが、それは届く前に消えてしまう。
「さぁ、一つになりましょう。聖女様」
触手がアナベルの全身を包み込もうとした、その時である。
突然、轟音と共に、塔が揺れた。
「何?!」
一度だけではない。二度、三度、と大きな爆発音がして、やがて、この階の壁の一面が崩壊し、夕暮れの空が視界に現れた。
そこには無数の戦闘機が飛んでいた。レーヴェンの機体は勿論、ドラコニアやヴェルの機体もいる。
「馬鹿な?! 敵機が接近しているのに備え、100機は無人機を上空に飛ばしていた筈だ……全て落とされたというのか!?」
8つの顔で驚愕の表情を浮かべる邪竜。突然の事に、私は理解が追い付かない。
壁が崩れた先の空から、1機の戦闘機がエンジン音を響かせながら迫ってくる。その機体は、赤い翼端で背中にはレールキャノンを背負っていた。
背中のレールキャノンが光を放つ。あれは、かの砲が発砲する前に行われる充電が発光して見える現象……いわば予備動作だ。つまり、あの機体はレールキャノンをこちらに向けて放とうとしているという事。
「わ! わ! わ!」
即座にそれを理解した私は、阿呆の様な声を出して甲羅の中に手足と頭を引っ込める。吉弔が行える防御態勢だ。気休め程度だが、何もしないよりはマシだ。
私が防御態勢に入ると同時に、レールキャノンが放たれる。衝撃が部屋の中を駆け巡る。極限まで加速された超威力の弾が八頭の竜の身体を貫通するのが見えた。
そして、私は体力的に限界だった事もあり、衝撃で意識を手放した。




