64.真の番
「中は意外と広いな」
塔の中はかなり広い。それから、訳の分からない機械も沢山置いてあり、本来、何かの軍事用の施設なのだろうと感じさせた。
ここで無人機の制御を行っていたのか?
そう思っていると、また、頭の中に声が聞こえた。
「この先にエレベーターがあります。それで最上階までお上がりください」
「…………一体何者なんだ、こいつは」
「あまり、友好的なものは感じませんが……」
私達は声に従って、エレベーターに乗った。最上階以外の階のボタンは何か細工がされているのか、押しても反応が無い。
「黒幕がこの声の主……という事で良いのかな?」
「どうでしょうね……。いずれにしろ、行ってやらねば、この状況にケリはつきますまい」
私は意を決して最上階の階のボタンを押した。モーター音と共に扉が閉まり、ゴンドラが上昇し始める。どうやら、エレベーター自体に細工はない様だ。
時間にして数十秒だが、体感的には5分以上ある感覚で、エレベーターは上昇し続け、やがて最上階に到着したと同時に扉が開いた。
扉が開いた先には、大きな回転椅子が1つ。こちらに背を向けた形で置いてある。
「やぁ、ご機嫌麗しく。聖女様」
「ここは……いえ、貴女は……」
最上階はおぞましい状態になっていた。壁一面が有機的な、ぶよぶよの肉の塊で覆われていて、そこには軍人や研究者を始めとした多くの人間が取り込まれていた。肉壁から手足や頭が出ていて、どれも生きている様には見えなかった。
正気を削られそうな部屋に、思わず悲鳴を上げたくなったが、ギリギリで我慢する。
そして、回転椅子を回して、こちらに向いた人間の顔は見覚えのある顔だった。黒髪ロングヘアの、いかにも胡散臭そうな女である。
「以前、基地にいた魔法使いだな……? なぜあんたがここに」
拳銃を構えながら、警戒心を最大にしたアナベルが聞く。確か、名前はフローラ・ネックとか言ったか、何故彼女がこんな所に。
「以前、お会いした時に言いましたよね。何故、人類はこんなにも愚かなのかと。今日もどこかで戦争は起こり、貧富の格差で飢える人は数知れず、環境だって滅茶苦茶になっていると。……少し、人類は増えすぎて、発展し過ぎたと思いませんか? 人類は、少し傲慢になりすぎました。数千万、数億の人間を間引く事で、戦争も環境汚染もしたくとも出来ない状態に人類を追い込む事で、将来生まれるそれ以上の人間を救うべき。と」
「随分、思想の強い事で」
「それを実行出来る力を得たのですよ。貴方のおかげでね、聖女様……貴方をこの場に招待したのも、それをより完璧に実行する為です。やや、強引なやり方だったのは謝りますが」
どうやら、私達を謎の扉に放り込み、操縦を乗っ取り、ここまで脳内に語り掛けて連れてきたのは彼女らしい。
そうするうちにフローラは翼を引き出した。黒い翼は邪悪なものを連想させる。だが、注目すべきは彼女の翼に、紋章が浮かび上がっている事だった。その紋章に私は見覚えがあった。
何故なら、アナベルの翼に刻まれていた紋章そっくりだったから。
「聖女様……いえ、アナベル・リムファクシ。貴方は私の運命の番なのですよ!」
「番!?」
思わず素っ頓狂な声を出した。脈絡もなく飛び出した爆弾発言に、私は困惑の色を露わにする。
番……アナベルの番がこの女……?
もしかして、あの時。彼女が基地を訪れていた時に接触した時。その時に彼の紋章も浮かび上がったのではないか。
困惑していたのはアナベルも同じだったようで、彼はそれから嫌悪感を表明した。
「生憎、俺には恋仲の人がいるのでね」
そう言って、彼は私に抱きついた。そして、フローラに見せつける様に、頬にキスをしてくれた。こんな状況だというのに、なんだかこそばゆい気分になってしまう。
「……見せつけてくれるじゃないですか、まあよろしい」
「それより、説明してくれるかい? フローラ女史。あんたは何者だ? この空間はなんだ? 何故俺の前世を知っている?」
「私が何者か? それは貴方もよく知っているはずです」




