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63.導くもの

「新手か?!」


「いや……なんだ、この反応は!?」


 困惑する『ホワイトアウト』。その原因はすぐに分かった。まさに、私達の目の前に、巨大な『門』が現れたのだ。比喩表現ではなく、本当に白い、巨大な扉が出現したのだ。


 扉はすぐに開いて、そこから先には、文字通りの漆黒が広がっている。私達は機体が加速していた事もあり、そのまますぐに回頭出来ずに、扉の先、暗闇の中に突っ込んでしまう。


「『シルバー』?!」


 『クロスボー』の声が響くが、それもすぐにノイズまみれになって聞こえなくなった。


「……?! なんだ、ここは?!」


「味方との通信途絶!」


 突然の事に、私は思わず困惑の声を上げ、混乱した。周辺の空間は一面の漆黒。そんな中を『フライングダンサー』は飛び続けている。


「落ち着け! 計器類に異常は無いか?」


「駄目! 速度計も高度計も全て狂った様に回転するだけ」


「なんだよ、ここ……無線は……駄目だ、通じない」


 混乱しつつも、アナベルは飛行を続けている。そんな中、前方の方に光が見えた。暗闇とは真逆に眩しいのですぐに分かった。


「『シルバー』、前方に光が」


「……あそこに向かって飛ぼう」


「危険ではありませんか?」


「燃料切れまで、ここでぐるぐる回っているよりは良いだろう」


 そう『シルバー』は決断すると、機首を光の方に向けた。無論、私も彼を信じる事にする。


「こちらも何かの扉みたいだ」


 どうやら、光の正体はこちらも扉の様だった。この暗闇の世界から、外に出れるかもしれない。


「……もう一度、くぐるぜ?」


「はい。一思いにやってください!」


 ともかく、この謎の空間にいつまでもいるよりは良いだろう。私達は加速して一気に扉をくぐった。


 ***


「ここは……ケルベロスの森?」


 扉をくぐった先では、数日前に彷徨った森が眼下に広がっていた。少し先には例の謎の塔もある。


「妙な所に出たな。先ほどまで俺たちは首都の上空にいたはずだが……」


「ワープした、とでも言うのでしょうか?」


「まさか! ワープ技術なんてそれこそSFの世界の話だぜ……いや、八頭の竜の魔法ならあるいは……」


 首都とケルベロスの森の間は約100㎞の距離がある。飛行機ならすぐの距離ではあるが、ほんの数十秒飛んだだけでつくものでもない。狐につままれた様な気分になりながら、私は残りの燃料を計算する。


「一番近くの基地まで、十分燃料はもちますね」


「では、向かうとしよう。無線は……引き続き通じないか……」


「計器類は回復しています。レーダーも正常。時間は……おかしい。首都上空にいた時から10時間近く経っています」


 機体の調子をチェックしつつ、私はなんとなく嫌な予感がしていた。一体、自分達に何が起こったのか。まるで、何かに誘い込まれた様な感覚になっている。


「……一体、何が起こって」


 そう私が言うと同時に、驚いた事に、後方から私達の機体に向けて何か、ワイヤーの様なものが飛んできた。油断していた事もあり、数kmはありそうな金属製の糸は、私達の機体に絡みついた。


「何か当たった!」


「ワイヤーです! ワイヤー状のものが、機体に絡みついています」


「ワイヤー?! 何でそんなものが……」


 アナベルは、機体を加速させてそれを引き千切ろうとする。が、なぜか、アフターバーナーが作動しない。それどころか、機体はひとりでに旋回を始めて、機首を塔の方に向けた。


「何? 機体が勝手に!?」


 そうアナベルが叫んだ。


「操作が効かなくなっている。エール、後部座席はどうだ?」


 そう言われて、火器管制システムを動かそうとするが、こちらも操作を受け付けなくなっていた。


「駄目です。動きません!」


「このワイヤーのせいか? やむない、エール、また緊急脱出を……ちっ、こっちも作動しなくなっている」


 アナベルは黄色と黒で塗られた緊急脱出のレバーを引くが、こちらもうんともすんとも反応しない。


「遺憾ながら、本機は謎の敵のマリオネットになってしまった、と見るべきでしょうね」


「畜生。もう少し警戒していればな……」


 こうなったらどうしようも出来ない。私達は、糸を操る何者かの手によって動くしか出来なくなった。不思議な事に、このワイヤーの主は、私達を攻撃する意図はない様だ。


 私達は、塔の近くまで誘導されると、着陸体勢にさせられた。自動でランディングギアがダウンし、今にも着陸する体勢になっている。


 無論、森の中に飛行機は降りられない。さて、どうするつもりかと思っていると、驚いた事に塔の前の地面が可動し、中から簡易的な滑走路が現れた。なるほど、塔から放たれた無人機はここに着陸するのか。大した偽装技術だ。


 大規模な仕掛けの割に、滑走路としては普通だった。変な仕掛けを期待していた訳では無いが、普通に着陸して少し拍子抜けしてしまう。


 滑走路におりたった『フライングダンサー』は自動でエンジンが停止し、キャノピーが自動で持ち上がる。


「降りろという事でしょうか?」


「おそらくな」


 アナベルは機体のエンジンを起動させようとするが、いくらやってもエンジンがかかることは無い。


「ちっ、それしか選択肢がないって事か」


「……慎重に行きましょう」


 私達は拳銃を取り出すと、機体から飛び降りた。竜人の身体能力なら、高いコクピットから飛び降りるのも造作ない。そのまま、物陰に隠れようとしたところで、女性の声が響いた。それも音としてでなく、直接脳内に声が響く。魔法の一種かもしれない。


「ようこそおいでくださいました。お待ちしておりましたよ」


 即座に警戒態勢に入る私達。拳銃を構え、お互いに背中合わせになって周囲を見渡す。だが、声の主の姿はない。なおも頭に声が響いた。


「アナベル・シンファクシ……いえ、『聖女』様。私は貴女に用があるのです」


「?!」


 謎の声がアナベルを聖女と言った事で、私達はいよいよ警戒した。彼の前世について知っているのは、それこそ、私くらいの筈だ。何故、声の主はそれを知っているのだ?


 声は、私達の脳の中になおも直接響いてくる。


「『聖女』様。貴女と話がしたい。塔の中に招待します。お入りください。……おつき(・・・)の方もご一緒に。私は最上階にいます」


 そんな声が響くと同時に、塔の入り口が自動で開いた。


「どうしましょう。どう考えても、罠ですが……」


 拳銃をすぐに撃てる状態にして、私はアナベルへ耳打ちした。


「……逃げる。というのであれば、どこまでも追い詰めるまでですよ」


 謎の声に従う様に、上空には数機の無人機が旋回している。逃がしてはくれなさそうだ。


「罠と承知で入るしかなさそうだが」


「……後ろは私が守ります」


「頼む」


 私達は声に導かれるまま、塔の中に侵入していった。


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