62.魅了魔法
首都上空にはサバンナで、弱った獲物を狙う禿鷹の様に、無人機の群れが市民を狙っている。私達の編隊は、そんな禿鷹達の上まで高く飛ぶと、そのまま急降下で速度を稼ぎながら突進した。無論、セオリー通り太陽を背にした状態での突撃である。
「落ちろ!」
レーヴェン機はそれぞれに無人機に狙いを定めると、各々、ミサイルや機関砲を放つ。伊達に今まで生き残ってきた連中ではない。放たれた矢は、それぞれ、暴虐の限りを尽くしていた無人機を射抜いた。
奇襲が成功した事で、10機程の無人機が火を吹いて落ちる。
「ざまぁみろ! 悪魔共め!」
「『バグパイプ』、油断しないで! 敵の反撃が来るわよ。一撃離脱!」
興奮している『バグパイプ』に釘を刺す。初撃は成功したが、まだ安心できる状態ではない。まだまだ敵の方が数が多いのだ。
再度高度を稼ぎつつ、敵機の群れを見る。怒った様にミサイルを乱射しているが、確かに足は遅い。乱射されたミサイルを探知し、アラートが鳴り響く。
「釣られてくれよ!」
アナベルはアフターバーナーに火をくべると、機体は一気に加速する。そのまま僚機達とは別の方向に機首を向けると、敵機の群れはまるで狙いすましたかの様に、こちらに追撃を仕掛けてくる。
「魅了魔法は!?」
「もうかけている」
「凄い。敵の無人機の群れは、全てこちらに食いつきましたよ!」
「当たり前だ。こちとら、元聖女様の使う魅了魔法だぜ!」
当然、こちらに向かってミサイルが飛んでくる。だが、それはフレアをばら撒き、狙いを定めさせない。彼我の角度的にも命中させるのは難しいだろう。
「『ホワイトアウト』、敵機の編隊が何故かこちらに付いてきている。このまま引き付ける」
空中管制機にそう告げると、アナベルは機体をダイブさせ、更に増速する。ジェットコースターの数倍はある速度とGに歯を食いしばりつつ、私は意識を手放さない様に気をしっかり持つ。
「……理由は不明だが、『シルバー』の機体に敵は引き付けられている様だ。全機、今のうちに敵の背後をつけ!」
「よし、良いぞ」
『ホワイトアウト』の指示に満足しつつ、アナベルはそのまま機体を低空飛行させる。眼下には炎に包まれた首都が見える。
「酷い有様ね……一般人から沢山犠牲者も出ていそう」
「復興する為には、まず、奪い返さなきゃな。もうひと踏ん張りしてくれ、『ストライク』!」
「アイサー!」
***
私達が囮になって敵の無人機を引き付けた事で、味方は後ろを取り放題になっている。次々と、無人機は撃ち落され、数は徐々に減ってきていた。
「敵無人機、残り10!」
「凄い、あっという間に形勢逆転しちゃった……」
「それもこれも、囮になっている『シルバー』と『ストライク』のクソ度胸のお陰だ。お手柄だな」
「『クロスボー』、『バグパイプ』、まだ戦闘は終わっていない。無駄口を叩くのはもう少し我慢しろ」
そう言うアナベルだったが、心なしか、声は興奮をまとっている。凄まじい速度で、敵機から逃げ回るというシチュエーションに、アドレナリンが噴き出していると思われる。
そうしている間にも、味方の対空砲と僚機が無人機を撃ち落していく。
「……無人機の全滅を確認! よくやった!」
『ホワイトアウト』からの通信に、私は後ろを振り返る。撃墜された最後の1機が墜落していくのが見えた。
「制空権を確保。これより地上部隊が首都の解放作戦を実施する」
「空軍の仕事はひとまず一段落って所だな」
「一時はどうなるかと思いましたが……案外やれるじゃないですか。この子も」
少し前まで埃をかぶっていた機体だが、想像以上に良い機体ではないか。そう思った。軽戦闘機として、動かし易かったのも良かったのかもしれない。
「……航空隊は一時帰還。整備と補給を受けろ」
「了解」
さて、後は陸軍の連中の仕事である。私達は少し休憩させてもらおう。
そう思っていると、再び『ホワイトアウト』から通信が入る。
「……? 何だ、これは?」
「どうした?」
「レーダー上に新たな反応。『シルバー』、君の目の前だ!」




