60.奪還作戦開始
「なんだい? このふざけた演説は。ラジオでB級映画でも流しているのかい?」
『八頭の竜』の演説を聞いたアナベルは、困惑しつつ言う。
私達レーヴェン空軍レッドリー基地飛行隊は帰還後、訳の分からないものを聞かされた。なんでもラジオが放送中に何者かによってジャックされ、八頭の竜を名乗る謎の女性による演説が行われたという。今流れているのはそれを伝えるニュース番組だ。
整備兵曰く、格納庫でラジオを流していたら、どの局でも突然これが流れ出したという。私達は着陸後のチェックを終え、機体を格納庫に入れたらまさに、この話をしていたのだ。
「八頭の竜、まさかね……」
困惑と同時にアナベルは恐怖を感じてもいた。
「まさかあの伝説の竜が蘇ったとでも? 聖女様?」
「いや、まさかそんなはずは……」
アナベルはそう言いつつも、どこか明らかに狼狽した様子であった。元聖女としての勘だろうか?
「緊急招集、緊急招集。パイロット達は直ちに作戦会議室に集合しろ」
今度は基地の放送が鳴る。もしかしたら、この怪演説に由来するものなのだろうか。ともあれ、私達は機体の整備を整備兵に任せ、作戦会議室に向かった。
***
「先に言う。緊急事態だ。諸君も例のラジオ放送を聞いたものは多いかもしれない。聖女伝説の八頭の竜を名乗る人物が、電波をジャックし、狂った演説をぶち上げた訳だが……まさに、演説通りの殺戮が始まっている」
殺戮……。不穏な響きに、パイロット達に緊張が走る。
「現在、ドラコニア、レーヴェン、および周辺国に例の無人機が飛来し、都市部に対し、無差別攻撃を行っている。諸君らも先ほど遭遇したと思うが、小型の高速ミサイルで武装した無人機は脅威で、弱点の足の遅さを、武装で補っていやがる」
無人機が出てきたら、一撃離脱を狙うべし。姉から言われた対策は既にレーヴェンのパイロット達には浸透していたが、敵は更にそれに対する対策も考案したというわけだ。なかなか利口な奴とみえる。
敵……敵か。一体敵の正体は、目的は何なんだろう? まさか本当に八頭の竜が復活したとでも言うのか……?
混乱しつつも、私は司令の話を聞く。
「攻撃にさらされているのは、我らの首都、マーリアスもだ。奪還作戦前に大変なことになった。我々レーヴェン軍は直ちに首都奪還作戦を開始。現地の住民を救う。航空隊は補給と整備が終わり次第発進。当初の予定とは違うものの、首都奪還作戦を開始する。パイロット達は出撃まで待機しろ」
さて、これは大変な事になった。殺戮が行われている、というのであれば、一刻も早く行って住民達を助け出さなければ。
***
「アナベル……いえ、聖女様。どう見ます? この状況。本当に八頭の竜が復活したと?」
作戦会議室から格納庫まで行くまでの間、私はアナベルに問う。彼は少し躊躇しつつも口を開いた。
「ありえない……と、言いたいところだが。俺の直感だと、本当にあの邪竜が復活した、という感じがする」
「それは元聖女としての勘?」
「ああ。奴も、俺と同様に新たに生まれ変わったのだとしたら……。邪悪な記憶も引き継いだままなら……」
「今度こそ、人類の管理、なんて傲慢そのものな野望を実現しようと動くと?」
「ああ。奴ならやるだろう。さらに過激に、人類を管理しやすい様に数を調節する……なんて、いかにも奴のやりそうな事だ。あの無人機。あれが今回の小竜達の代わりなんだろうな。どうやって、ドラコニア軍からコントロールを乗っ取ったのかは分からないが」
「…………」
「…………」
そこまで話して、私達の会話は途切れてしまった。現在進行形で傷つけられ、命を落としている人が居るという事もあり、お互い、何を話そうか困ってしまう。
「……私は、前世の記憶もない、竜の出来損ないの吉弔です。アナベルの因縁については、正直、今も分からないですが。それでも、今行われている事は止めなきゃいけないって事は分かります……軍人として、力のない人を守る、という本分を果たしましょう」
辛うじて、そう口にした。アナベルはそれを聞くと、しっかりと頷く。
「ああ。それに関しては間違いない。1人でも多くの人を、理不尽な暴力から救い出そう!」




