59.sideヴェル 怪演説
「……殿下が消えた?!」
「はい。我々の不覚です。あの蝙蝠野郎……!」
空戦を終えて基地まで帰って来た私、ハンナ・ヴァルカンは、驚愕する知らせを伝えられた。なんとエルネスト殿下が拉致されたのだ。
今回の空戦において、あの動きの良い奴相手に危ない所はあったものの、無人機相手には大戦果を挙げ、10機中7機の敵機を撃墜する事に成功し、敵編隊を追い返した。
あの敵、高速ミサイルなんてものをどうやって入手したのか。少し前にドラコニアの新型機のデモンストレーションを見せつけられたのを思い出す。戦ったのはあの時の機体だが……。どういうことだ? 何故、ドラコニアの連中から攻撃される?
――反乱の計画が漏れていた……?
パッと思い浮かぶのはこれだが……。それなら、まずドラコニアの憲兵が私達を逮捕しに来るだろう。そんな兆候はない。それが何故……?
そんな中、なんと、エルネスト殿下が、大臣の1人によって拉致されたのだという。もう混沌とし過ぎていて状況が分からない。
「殿下……」
なんという事だろう。せっかくの大戦果を上げたというのに、それを一番に褒めてもらいたい人がいないとは。あの金髪のもふもふも、宝石の様な瞳もここにはない。
すぐにでも愛機を駆って探しに行きたい衝動に駆られるが、そこは私も空軍大佐である。それをしないだけの自制心は持っていた。それに手がかり一つないのではどうしようもない。
「……そうだ」
大切な事を思い出した。以前殿下に渡した首輪。今こそ、それを使うべきだ。元々可愛らしい殿下が他の雌に攫われた時に、それを見つける為に渡した代物だが、こんな時に役立つとは。
私は魔力を込めて、首輪の探知機能を発動させた。
「これは…………?」
首輪から発信された位置情報は奇妙なものだった。発信位置はケルベロスの森。例の無人機を操る塔からだった。
「何故こんな所が……」
ドラコニアの牢屋ならともかく、なぜケルベロスの森になんて……。
「大佐、大佐」
混乱していると、部下の1人が声をかけてきた。ハイエナ獣人の、よくエレメントを組む相手だったが、今はそれどころではない。
「何だ? 今は取り込み中だ。緊急事態でなければ、また後にしてくれ」
「それが……緊急事態です」
彼はハイエナ耳を垂らして、少々困った様に言ってきた。仕方なく話を聞く。
「何か?」
「ラジオを聴いてください。妙な放送が流れています」
「?」
妙な放送? 確かに、見るといつの間にか、ラジオを中心にして基地の連中が集まって人だかりが出来ている。
私は面食らいつつ、そこに入っていく。放送は女性の声で、何か演説をしているようだった。
「聞こえるか? 人類よ、よく聞け。私は八頭の竜。かつて伝説の勇者によって討たれた伝説の邪悪なる竜である。今、私は饕餮の血をすすり、完全な復活を遂げた。
人類よ、貴様たちは、千年前と変わらずいがみ合い、憎み合っている。人間、獣人、竜人といった人型の動物が出現して以来、数万年に渡って繰り広げられた愚かなる歴史は、今この瞬間をもって終焉を迎える。
私は長きにわたり、貴様たちの争い、無知、そして傲慢を見てきた。支配者たちは富を独占し、弱き者を踏みにじり、多くの血が流れてきた。それを下々の者たちは黙認し、見て見ぬふりをしてきた。もはや、この愚かな世界は存続するに値しない!
私は、真の秩序をもたらす者だ。そして、貴様たちを粛清する者だ。腐りきった文明を根こそぎ焼き払い、新たな世界を創造する。我々の力の前に、貴様たちの軍隊、武器、技術、すべてが我々の前には無力だ。
今日、この瞬間から、我々は貴様たちの粛清を開始する。
――人類の99%を死滅させ、次の世代の人々を救うのだ。私に管理された少数の人類は新たな時代を新たな繁栄をもって向かえるだろう。
愚かな抵抗など無意味だ。これは警告ではない――"粛清"だ。
私は今、全世界へ向けて宣戦を布告する。
人類の99%の人間は生きるに値しない命だ。人類の99%を……殺す!!」




