58.sideヴェル 裏切り
「ひとまず、この地下壕の中で待機、ですな」
ハンナが空に上がっていって少し経った。大臣の1人がそう言う。戦時中という事もあり、また、海千山千の連中という事もあり、ここに集まった連中は皆、落ち着いたものだ。
「ハンナ嬢の腕を信じましょう」
「……」
ハンナなら討たれる事はないだろうが……。少し不安だな。
「殿下、こんな時こそ落ち着いてどーんと構えているものです。それなりに会議も長引きました。夜食でも食べましょう」
すると、大臣の1人が近くにいた側近に命じて、タッパーに入った軽食を持ってこさせた。彼はコウモリ獣人で、父の代から仕えていた信用できる男の1人だ。
「なんだ、わざわざ用意していたのか」
「こんな事もあろうかと思い」
「良いだろう。一度会議は中断といこうじゃないか」
軽食の中身はサンドイッチ(※この世界にサンドイッチ伯なる人物は存在しないが、便宜上そう表記させてもらう)とポテトサラダにウインナーと唐揚げというオーソドックスなものだ。
サンドイッチの中身は、ハムとチーズという、これまた定番の中身だ。
信頼されている男からの差し入れという事もあり、他のメンバー達もそれを食べている。
***
「……?」
そんな中、身体に違和感を覚えたのは、食べ始めてからしばらく経った時のこと。なぜだか急速に猛烈な眠気が襲ってきたのだ。
時計を見るとまだ夜の9時。まだ眠くなるには早い時間だ。
「……まさか」
周りを見ると、他の大臣や側近たちも、睡魔に襲われていた。ある者は半目に、ある者は既に机に突っ伏している。
「……貴様、盛ったか?」
ただ1人ケロッとしている、軽食を勧めてきた大臣を睨む。
「さすが殿下、理解が速い」
……なるほど、こいつ、食事に睡眠薬を混ぜおったな。しくじった。ここにきて油断した。
「はっ、ドラコニアと内通していたか?」
おおむね、この計画を知って、ドラコニアと内通していたのだろう。おそらく、僕達をそのまま引き渡す気だ。
しくじった。まさか、身内の裏切りを察する事が出来なかったとは。
「まさか。そんなつまらぬ連中との繋がりなど持ちません。……先生、来てください!」
裏切り者のコウモリ野郎がそう言うと、扉が開いて、1人の竜人が入ってきた。
竜人は女性で、黒髪をロングにした胡散臭い奴だった。僕は彼女を知っている。だが、何故彼女が……?
「フローラ嬢……? 何故、貴官が?」
混乱していると、彼女は僕に手錠をはめて軽々と持ち上げた。一体細い身体のどこにそんな筋力があるのかと言いたくなる。
「ふ……。殿下、喜んでください。殿下の力で世界は変わります」
「分からない事を言う。ドラコニアに引き渡すつもりであろう?」
「そんな勿体ない事しませんよ。貴方は貴重なパーツなのですから」
「……?」
「大丈夫。少しチクッとするだけです」
理由のわからない事を抜かしているが、それを指摘する前に、僕は意識を手放した。




