56.シャール空軍基地近郊 高度4000m
ヴェル領シャール空軍基地の近く。上空4000m。
どうも最近の戦闘では、悪天候での戦いが多い。だが、今日の空模様は快晴であった。とはいえ、夜なので青空を見る事は叶わないが。
月が出ているので、いくらかは明るいが、それだけに、敵からは視認されやすい。私達は前衛。後衛の爆撃装備の味方部隊の為に、敵の迎撃機を相手にする露払いが目的。激しい空中戦になりそうだ。
灯火管制が敷かれているのか、敵基地は見えない。だが、遥か遠くに、アフターバーナーの炎が見える。敵の迎撃機が上がってきているのだろう。
「全機、そろそろ迎撃機と会敵する頃だ。注意せよ」
空中管制機、『ホワイトアウト』からの言葉に、私達は緊張が走る。恐らく、敵機の中には『血まみれ狐』もいるだろう。空の上で会うのは3回目だ。
勝てるかどうかは分からない。だが、生き残らなければ。アナベルと添い遂げる為にも。それにこちらとて、何度か実戦経験を積んで成長しているのだ。機体性能はやや心もとないが、負けてやるつもりもない。
「ネクロノミコンの全機、聞いたな? 九尾の狐も出てくるぞ。気を引き締めろ」
「「了解!」」
僚機の2機から応答がある。無線機の調子も上々だ。
「九尾を最優先で相手する。奴を自由にさせておいたら、何機が落とされるか分かったもんじゃない。俺が前衛で奴と追いかけっこをする。2人は九尾が隙を見せたら、一気に討ち取れ!」
「いつも通り、『シルバー』が囮って事」
「今更こういうのはなんだけど、やられないでよ?」
「心配するな。この中だと一番小回りが利く機体に乗っているし、逃げ足にも自信がある」
実際、アナベルは腕は良いのだ。この役割分担がこの隊だと一番効率が良い。
「『シルバー』、貴方の事、信頼していますから。さっさと終わらせて、帰って、いちゃつきましょう」
「はは、『ストライク』。良い事を言うじゃないか。いつも通りついてこい。火器管制、頼むぜ?」
「貴方とは生まれた時から一蓮托生ですから。追従は任せてください」
私は、兵装のロックを解除した。そして、重りになる増加の燃料タンクを投棄する。レーダーには敵機が何機か映っている。この子は、探知性能は良い様だ。
「各機、先制攻撃を加えて隊列を乱す。FOX1!」
「ターゲットロック! FOX1、ファイア!」
私は慣れた手つきで敵機の1機をロックオンすると、ミサイルを放つ。他の僚機たちもそれに続いて、ミサイルを放った。逆に、敵編隊からもミサイルのお返しが飛んでくる。ミサイルアラートの音が激しく鳴り響くが、私達はそれをかわし、編隊を組みなおすと、敵機に向けて突進した。ミサイル避けの魔力が込められた塗料も機能している。
「どこだ? 九尾の血まみれ狐は!」
アナベルは、あくまであの赤い翼の機体を狙いにしている。奴を倒せば、敵の戦意は大きく下がる。ヘッドオンを仕掛けてきた敵機に機関砲を浴びせ、即座に撃墜したが、コイツではない。
「あの動き……あの見どころのある奴じゃないか」
無線機に、聞き慣れない声が入って来た。澄んだ女性の声だった。
レーヴェン語ではない。ヴェルの獣人達の使う言葉だ。どうやら混乱の中で無線が混線しているらしい。
「……この声、奴だな」
アナベルは、直感で、声が追い求めていた相手のものだと感じ取った様だ。キャノピーごしに夜空を見渡す。
「……いた。月明かりに赤い翼が良く映えてやがる」




