54.決戦前の下準備
それから、少し時間が経った。着々と、首都奪還作戦の準備は整えられている。ここ、レッドリー基地にも、弾薬や燃料が運びこまれて、いよいよ大作戦の前なのだと意識させられた。
そんな中で、私達パイロット達は作戦会議室まで集められていた。司会進行はいつも通り、司令官の仕事だ。
「諸君、よく集まってくれた。いよいよ、首都マーリアス解放作戦が実行される」
「……長かったわね」
「何だかんだここに来るまで、半年くらいかかった。だけどもう一息よ」
私は、脇にいた『クロスボー』にそう言う。部屋のスクリーンには、この国の地図と、敵の支配地域と味方の支配地域が色ごとに塗られて描かれている。もう味方は首都の目の前にまで迫っていた。
「首都解放作戦の前準備として、ヴェル属州への攻撃を実行する」
「……ヴェルへ? 首都解放作戦はまだなのですか?」
少し困惑しつつ、アナベルは言った。首都解放を目前にして、なぜヴェルへ攻撃を仕掛けるのか? 確かに変ではある。
「首都解放の為の事前準備と……まぁ、なんというか、政治的な駆け引きの一環だ。詳細は伏せさせてもらう」
「大人の事情って事でありますか」
「そういう事だ」
何か、政治家の先生方や、軍のお偉いさんしか分からない事情があるとみえる。兵士である我々は知らなくて良い事という訳だ。まぁ、世の中、知らない方が良い事は色々ある。
「基地航空隊は全機出撃。途中で補給機からの空中給油を受けつつ、ヴェル本国へ飛べ。我々レッドリー基地航空隊の攻撃目標は、シャール空軍基地。この基地は、首都マーリアスへの出撃拠点となっている。事前にここを潰しておくことで、敵の航空優勢を減らす事が目的だ。同時に他の基地の航空隊は、ヴェルの首都への空爆を行う予定であり、その為の陽動作戦でもある」
本当に下準備という訳だ。……それにしても、ヴェルへの空爆ねぇ。一般人を巻き込むのは、色々とまずいと思うが……。
「お言葉ですが……一般人を巻き込む様な真似は……」
「余計な恨みを買う事になりそうです」
「国際法的にもまずいでしょう」
それは他の人間も思ったのか、何人かが、そう遠回しに作戦内容を批判する。
「……あくまで、ヴェルへの空爆は、政府・軍施設を目標としたピンポイント攻撃という事だ。他の空軍基地の連中の腕を信じる事だ」
あまりやり過ぎると、今度はこちらが悪者になってしまう。上手く狙ってくれると良いが……。
「……それよりも、シャール空軍基地には、例の『血まみれ狐』が駐屯しているらしい。彼女を含め、敵基地の航空戦力を排除する」
司令の言葉を聞いて、部屋の空気が変わった。あの集積地上空での空戦で、隊長を含め、この基地の戦友達が何人も奴に落とされたのだ。因縁の相手の名前を聞いたパイロットたちは、ある者は敵討ちに燃え、またある者は恐怖している。
うちの隊のメンバーはというと、アナベルを含め、皆、前者側らしい。それぞれの目には、闘志が宿っていた。
「基地の航空隊は準備が整い次第、発進せよ」
……いよいよ、あの因縁の相手との決戦だ。私は、深呼吸をして、はやる気持ちを押さえつけた。




