53.模擬戦
「管制塔、こちらネクロノミコン1、離陸許可を求める」
「こちら管制塔。ネクロノミコン1、離陸を許可する。じゃじゃ馬の手綱を引くのは大変だと思うが、健闘を祈る」
「はは、精々振り落とされない様にするさ」
滑走路を走った感じはスカイシャドウと似た感じだった。計器類も、そこまで配置が変わったりはしていない。ひとまず、仕事は問題なく出来そうである。
「V1……ローテート!」
滑走路から車輪が離れ、ぐんぐんと高度が上がっていく。Gに体が押さえつけられる感覚は、最早慣れたものだ。
「『シルバー』、どうですか? 操縦感覚は?」
「……想像よりは悪くないが……。お世辞にも良くはないな。かなり癖がある」
アナベルに問うと、忌憚なき感想がきた。彼の操縦技術は悪くないはずだが、そういう反応が出るあたり、そりゃ、常人には扱うのは難しかろう。
「後部座席の感想は?」
「計器や武装の発射方法は、スカイシャドウのものとほぼ同一なのは良いですね。……ただ、コックピットの中がスカイシャドウと比べて狭く感じます。少し窮屈な印象ですね」
それから一通りのマニューバを試したが、一応、問題ないレベルには出来た。ただ、やはり、操縦が難しいのか、今までの機体と操縦感覚が違うせいか、いつもよりもアナベルは疲労していた。
「思ったよりは動かせるな。この辺は慣れれば少しは良くなるかな……ただ、経験の少ない新兵には扱いが難しそうだ」
「結論から言うと、聞いていたよりはひどく無いが、スカイシャドウと比べると見劣りする……という感じですね」
「ま、ね。本来試作機なんてこんなもんだわな。フィクションにおける、超強い試作機が異常なだけで」
そんな感想を言い合っていると、基地から1機のスカイシャドウが飛んでくる。『クロスボー』の機体だ。
「早速、やってるわね。どう? 具合は」
「まぁまぁって所かな。模擬戦も出来そうだ」
「じゃ、早速始めましょうか。せっかくだし、賭けでもしてみない?」
「何? 負けた方がビールを奢るとか?」
「その程度じゃ面白くないわ。勝った方は、『シルバー』と1日デート出来る、とか、どう?」
「ぶっ?!」
思わず変な声を出してしまった。は? デート? アナベルと?
「『クロスボー』、まだ、『シルバー』の事、諦めてないの?」
「アタシは諦めが悪いからね~。なーに、勝てば良いのよ、勝てば。じゃ、よーい、スタート!」
「あ、ちょっと!!」
こちらの事も聞かずに、『クロスボー』は、散開して戦闘態勢に入ってしまった。一度離れて、こちらの動きを伺いつつ、攻撃を仕掛けるつもりらしい。
「……仕方ない。一戦交えるとしよう」
「…………勝ちますよ。『シルバー』!」
「凄い気力だ」
***
さて、どうしよう。
見た所『クロスボー』のスカイシャドウはこちらよりも、わずかに高空を飛んでいる。機首はこちらを向いておらず、ひとまず高度を稼ぐ算段らしい。
「アフターバーナーと上昇性能のテストといくか」
ならば、こちらも高度を稼がせてもらおう。『シルバー』はアフターバーナーを吹かして、機体を上昇させた。
「上昇性能は中々良いじゃないか」
スカイシャドウに比べて、自重が軽いのもあって、案外すいすいと高度を稼げる。見ると、もう『クロスボー』のいる高さにまで追いつけそうだった。
「その分、兵装の積載量は低いですが……」
「スカイシャドウの時の感覚でバカバカとミサイルを撃っていると、弾が足りなくなるかもしれないな……」
「交戦中に弾切れになるのは困りますね……」
一撃必殺を意識し、撃墜確実の距離まで迫ってからミサイルを放つ必要があるという事だ。まるで、東洋の武術『イアイ』の様である。
向こうも、こちらの様子に気づいたのか、上昇をやめて、降下してくる。セオリー通り、太陽を背にしながらの突進だ。
急降下で速度を増しながらの、お手本の様な一撃離脱の形である。
「回避する」
当然、素直にやられてやる義理はない。『シルバー』は、同じく機首を下げて回避行動に入った。絶妙な距離での追いかけっこの形になる。
実戦だったら、ミサイルがロックオン出来るか出来ないかの、中途半端な距離だ。『クロスボー』も歯がゆい事だろう。
「ドッグファイトの性能を試してみるか」
「良いですね。やりましょう」
『シルバー』は、機体を90度ロールさせると、そのまま左方向に旋回を始める。『クロスボー』のスカイシャドウも追いかけてきた。
「旋回した時に若干クセがあるな。慣れるまでが大変だ」
身体を軋ませるGがかかっているにも関わらず、『シルバー』は、冷静に機体を評価しつつ操る。大した胆力だ。
旋回性能はかなり良く、『クロスボー』と相手の尻を追いながらドッグファイトをしていると、そのうちに追う側と追われる側の位置が入れ替わっていた。
「格闘戦では、こちらに分がある!」
『シルバー』は、一気に『クロスボー』のスカイシャドウへ距離を詰めると、背後についた。至近距離、実戦だったら機関砲でハチの巣にしている距離だ。
「チェックメイト! 『クロスボー』、残念だがそっちの負けだ」
「っ! ドッグファイトはそっちが強いわね……」
「という訳で、『シルバー』とのデートは諦めてね!」
そう言って、私は勝利宣言した。『クロスボー』は悔し気に、機体をバレルロールさせている。
「その機体の格闘性能と、『シルバー』の腕のお陰という事を忘れない事ね」
「負け惜しみを……」
とはいえ、実際、そうではあるのであまり反論もできない。
「格闘性能は良いが……逆に、それ以外は今一つだな。ナイフ一丁で戦っている様な印象をもった。速度はスカイシャドウと同等なのが救いか……」
バレルロールをしている『クロスボー』の後ろにつきつつ、アナベルは愚痴る。
「なかなか、難しい機体ですね……」
「得意の接近戦になれば心強いがな……。本当に、腕の良いパイロットにしか扱えない機体だ」
「腕の良いパイロット……それこそ『シルバー』みたいな?」
「世辞は良い『ストライク』。ま、悪い気はしないが……。しばらくはこの機体に命を預ける事にするか。さぁ、基地に帰ろう」




