51.きな臭い新兵器
「よっ、我が妹。お姉ちゃんがお見舞いに来てやったわ。這いつくばって感謝しなさい」
「なんで今日はそんな態度デカいんですか」
「大きい仕事を終えたばかりだから、自分に自信がついてるのよ」
ここはレーヴェンの軍病院。肉体的・精神的に重症な者が送られる場所だが、それらに混じって入っているにしては、私、エール・シンファクシと、アナベル・リムファクシは幸運にも軽症と言えるレベルだった。
機体からの脱出の際に生じた、すぐ治る様な傷が数カ所。それと軽度の脱水症状と栄養失調。だが、これらも樹海を歩いて踏破したにしては軽症と言えるレベルで、しばらく点滴と休養をした事で回復していた。
銃撃で破損したアナベルの背中の甲殻も、竜人の回復力と、専門医の治療をもってすれば1週間もすれば復活するレベルであった。流石、軍医殿の治療はただの回復魔法とは一味違う。
「何よ、大きい仕事って?」
「それは国家機密ね。身内にも言えない位の」
「ふーん……。まぁ良いわ」
「それより、2人とも無事で良かったわよ。敵地上空で脱出したって聞いた時は、いよいよこの時が来たか、って覚悟を決めたもの」
「ははは。そう簡単に死んでたまるかっての」
病院のラウンジに、3人はいた。私達ももうすぐ退院出来そうだし、今更、姉さんが見舞いに来なくても良かったのだが。
「今回来たのは見舞いもだけど、あなた達が撃墜した新兵器の情報の解析が終わったからよ」
「へぇ……」
なるほど、その為か。一応、私達は敵の新兵器を撃破し、部品を持ち帰ったという立場上、諜報部の協力者という事になっている。それとなく、解析が終わったら出せるだけで良いので情報を教えて欲しいと頼んだので、それを聞きいれてくれたみたいだ。
「あまり、他言無用でお願いしたいわ。これをもとに、ここから敵機への対抗戦術も考えて、味方に浸透させなきゃいけないわけだし」
「勿論、分かっているさ。俺達の口が堅いのは、ウィングも知っているだろう?」
「信用しているわよ?」
そう言って、一呼吸置いた姉さんは軽く咳払いすると、話を続ける。
「まず、敵の新兵器だけど……科学技術の産物というよりは、魔法技術の応用品に近い性質……それこそ、マジックアイテムに近いとでもいうべきかしら」
「マジックアイテム……」
「いえ、あれは呪いのアイテムと言うべき代物ね。装甲材質やネジはいたって普通のものだったけど、問題はあの赤いパーツよ」
あの、アナベルの前世が蘇るきっかけになったパーツだ。
「いや、驚いた。現在の技術から見ても、まったく未知の技術で作られていてね。機械にも関わらず、これ自体が意識を持っていて、生命活動の様な反応をしている事がわかった。おまけに、外部からエネルギーの供給を受けずに、この機械は活動を続けている。永久機関ってやつね」
「人工生命体……とでも言うの? それも半永久的に動く……」
さりげなくアナベルにアイコンタクトを取りつつ言う。アナベルの瞳は「ドラコニアはやりやがった、ということだ。八頭の竜の眷属が再現されているのだよ」と、言っている。
「まぁ、そう思ってくれて構わないわ。あなた達、本当にとんでもないものを持ってきてくれたわね。おかげで、今頃、国中の科学者がひっくり返っているでしょうよ。それに、装甲の隙間から見えた肉塊の様なもの……人工筋肉ってやつかしら。赤いパーツが心臓になって、それを動かしているとすれば、これはもう、生物兵器……あー、所謂B兵器とは違う意味での……新兵器と言えるかも。休み無く、滅茶苦茶な軌道をする自律飛行兵器、これだけでとんでもない脅威ね」
心なしか、アナベルの顔色が悪い。『元』聖女として、最悪の展開になりつつある事に辟易しているのだろう。
「で? 凄い凄い言ってないで、何か弱点はあるのか? パーツがあるなら、その辺も解析出来ないかな? …………出来れば、伝説みたいな魅了魔法以外の方法で。あれは中々疲れる……という噂だ」
経験故か、少し苦痛に満ちた表情をするアナベル。ああ見えて、かなり負荷がかかる魔法らしい。
「無い事も無い。あの機械ね、Gを無視した軌道を出来る反面、構造上、音速以上で飛ぶ事は出来ないみたいなの。だから、遭遇したら、ドッグファイトに付き合わずに一撃離脱を徹底する事」
「覚えておこう。スピードを落とさず一撃離脱だな」
「一撃離脱。一撃離脱」
そう呪文のように繰り返す。言う程、一撃離脱も簡単では無いが、一応攻略法があるだけマシだ。
「ま、とにかくこれは量産されるかもしれない。出来るだけ早めに対処法を広めたいわね」
「諜報部も頑張っているのね。私達も早く復帰しないとね」




