48.抱擁
「エール」
「なんですか? その伝説の悪竜とやらについて考えていたのですが」
「寒い」
「熱は……下がっている様ですね。もう暖かい時期とはいえ、この雨では寒さを感じるのも当たり前です」
少し雨は弱まってきている。が、日は既に落ちて、気温は下がってきている。彼が寒さを感じるのも分かる。
とはいえ、ここはまだ敵との競合地域。火を焚いて暖を取るというのも危険である。
「……」
私は少し考えて、意を決して彼に抱きついた。
「えい」
「わっ」
彼は突然の事に驚きつつも、しっかり私を支えてくれた。
「エール……?」
「ふふ……こうすれば多少は暖かくなるでしょ?」
「そうは言ってもだね」
構わず、私は彼をしっかりと抱き寄せた。彼の体温が伝わってきて、とても心地よい。
「昔、私が泣いていた時に、よくこうして優しく抱き寄せてくれましたよね」
「ああ、そんな事もあったな」
「その時ですかね。貴方を好きになったのは。もう離しませんから、覚悟してくださいね」
「どうもエールは愛情が重い」
「性分ゆえ、諦めてください。吉弔の愛は重いという諺もあるではありませんか」
「そんな諺は初めて聞いたよ」
「今私が作りました」
私の瞳を眺めたアナベルは、何かを諦めた様に首を振った。
「不安なのですよ」
私は彼に本音を話す。
「貴方と『運命の番』が何かの拍子に再会する可能性は十分あります。そうなった時、私は貴方に捨てられてしまうかもしれない。そう思ったら怖くて……それに実は聖女様の生まれ変わりとか、色々と混乱しているのですよ、私も」
「エール……」
アナベルはそっと、私を抱く力が強くなった。
「馬鹿にするな。俺はあっさり好きな人を裏切る様な薄情な人間じゃないぞ」
「アナベル……」
「もうエールは俺のものだ。こう見えて俺も独占欲の強い人間でな」
そう言うと彼は不意に私の頬にキスをした。
「!!」
「一周回って、この血の繋がらないきょうだい、という関係を壊すのにも興が乗ってきた」
彼の顔は完全に獣のそれになっている。手は、好きな相手を愛撫したいと言わんばかりに、なんというか、こう、胸や尻でいやらしい動きをしていた。
「どうも生命の危機が迫ると、性欲が高まるっていうのは本当みたいですね」
仲が進展したのは良いし、極論身体を重ねても良いのだが、流石に敵との競合地域という場所がまずい。
「……この『続き』は帰ってからにしましょう。あまり声をたてるのはよろしくありません」
「…………そうだな」
「今日は抱っこだけで勘弁してください。帰ったらしたい事してあげますから」




