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46.前世

「……よく寝た」


「おはようございます。意外とすぐに起きましたね。寝言で、いやらしい事を沢山言っていましたよ。恋人同士とはいえ、セクハラは見逃せません」


 私はそう言って、彼をからかった。


「ええっ? 何か君を不快な気持ちにさせたかな?」


「はい。寝ぼけて胸やお尻も触られました。責任取って結婚してください」


「…………」


「冗談ですよ。そんな覚悟決めた目をしないでください」


 膝枕をしていた彼の額に手をあてると、すっかり熱は落ち着いたようだった。


「何時間寝ていた?」


「2時間と少しですかね。この土砂降りです。私も良い小休止になりました」


 まだ外は雨が降っている。冷たい雨は体力を消耗させる。まだ、比較的暖かい時期とはいえ、無理に進むのは止めた方が良いだろう。


「明日の朝には雨もやみましょう。夜間に見ず知らずの森を進むのも怖いですし、今日はここで夜営しましょう」


「……そうだな」


 熱は下がったようだが、まだ具合が悪いのか、アナベルは薄い反応しか返さない。


「食欲はありますか? もう少し休んでいても良いですが……」


 私が携帯食料を勧めると、アナベルはその中からチョコレートを一つまみ食べた。正直、あまり美味しいものでは無い……食べられない程不味くはないが、好んで食べようとも思わない味だ。が、とりあえず最低限の栄養は取れる。


 軍隊の携帯食料は、作戦中に食べすぎる事を防止する為、あえてあまり美味しく作られていなかったりする。それだけに、早く帰って暖かい食事にありつきたいものだ。


「……なぁ、エール」


「なんですか?」


「これから、俺は変な事を言う。話半分くらいで聞いて欲しい」


「は、はぁ……」


 突然、何かに怯えた様な、覚悟を決めた様な顔をしたアナベルが言う。なんだろう、突然。まさか、こんな場所と場面でプロポーズって事もあるまい。


「実は……前世の記憶が蘇った? みたいなんだ」


「ぜ、前世……」


「今、少し引いただろ」


「引いてはいませんよ。ただ、熱で頭が錯乱しているのかと」


「いや、まぁそうかもしれないけど……」


 突然本当に変な事を言い出したアナベルに、私は冷静に言った。


「続きは?」


「信じてくれるのか?」


「聞いてから決めます」


 そう私が言うと、アナベルはゆっくりと語り始める。


「寝ている間に、脳の中に直接記憶が流れ込んで来たというか、夢とは違う変な感覚だったが、それで俺は、前世の記憶を完全に思い出したんだ」


「寝言で、八つの頭の竜がどうのこうの言っていましたね」


「それだよ。…………どうやら、俺の前世は、かの聖女伝説の聖女らしい。あの八つ頭の竜の伝説に出てくる」


「帰ったら、軍医殿に脳を診てもらった方が良いですね。銃弾が頭の甲殻にも当たりましたかね」


「本当なんだって」

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