45.洞窟
都合よく、近くに洞穴があったので、そこで治療を行う事にする。森の中だし、敵の追撃があったとしても上空から見ただけではわかるまい。
「これは痛そうですね……甲殻がへこんでいます」
私は人間態になった彼の背中を見ながら、そんな感想を述べた。
彼の背中は軍人、それも日々Gに耐え続けるパイロットだけあって、涼し気な顔と裏腹に引き締まっていて、さながら昔の裸体像の彫刻作品の様だった。そんな芸術作品の如き背中に生えた甲殻はベコベコにへこんでいて、弾が貫通していないのが不思議なくらいだ。小口径の自動小銃でこれだから、やはり竜は現代兵器の前では無力なのだと痛感させられる。
「ひとまず治療します」
「……ああ、頼む」
心なしか、彼は少しぼーっとしている気がする。手には例の赤いパーツを持っていた。
「どうかされました?」
彼の様子に若干の違和感を覚えつつ、私は治療魔法を使いながら彼に聞く。
「ん……あぁ、なんだか、このパーツを手にして以来、妙な感覚に陥ってな」
「妙な感覚?」
「なんだか、頭の中が冴えわたるような……興奮……? いや、違うな。何だろう、上手く言葉には出来ないが」
「……まさか、その部品に、麻薬の様な作用があるとか?」
「無い……とも言い切れんな。まったく未知のパーツな訳だし」
そうするうちに治療が終わる。甲殻の欠けまでは専門医でなければ修復出来ないが、ひとまず、痛みや内出血は止まったはずだ。
「これで良し。どうです? 気分は?」
「絶好調だ、ありがとう……と言いたい所だが。今度はなんか熱っぽい気もする」
「え? 」
何か手順を間違えたのだろうか? そうするうちに、アナベルは洞穴の中で、ぐったりと座り込んでしまった。慌ててそれを支えつつ、額に手を当てるとすごい高熱が出ていた。
「ア、アナベル?!」
「それに、気分も悪い……競合地域で悪いが、少し休憩させてくれ。もしも、敵が来たら俺を置いて逃げて良い」
そう言うとアナベルは、具合悪そうに横になってしまう。
「逃げて良いって言ったって……」
そう言われて主君で相棒で恋人を放って逃げる訳にはいかない。しかも、外は、とうとう雨まで降ってきた。バケツをひっくり返したような大雨だ。この洞穴を見つけられて良かったと思った。
ひとまず小休止だ。私はそう決めると、すぐ手に取れる位置に護身用の拳銃を置くと、携帯食料を取り出して少し口に入れた。味方と合流出来るはいつになるか分からない。体力の元となるカロリーは取れる時に取っておきたい。目の前ではアナベルが苦しそうに寝息を立てていて、自分だけ腹を満たしている事に少し罪悪感を覚えなくもないが、これくらいは勘弁して欲しい。
「また、夢を見ておられるのですか?」
そう言って、寝ている彼の頭を上手くずらして、伸ばした私の太ももの上に乗せてあげた。固い地面の上よりは良いだろう。額に手を当てると、かなり高熱が出ている事が分かる。睡眠で、ある程度回復すれば良いのだが。
「八つの頭の邪竜を討つ……」
「いや、どんな夢見ているんですか……?」
そんな変な寝言に、私は思わずツッコミを入れる。八つの頭の邪竜……? まるで聖女伝説だが、本当にどんな夢を見ているのだ、彼は……。




