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43.残骸

「……ここ、あの無人機が落ちた辺りですよ」


 私はアナベルに告げる。ちょうど、前方で黒煙が上がっている。まさに、あの無人機の残骸だろう。


「エール。出来れば、あそこに行けないかな?」


「は、はい?」


 突然そんな事を言い出したアナベルに、私は困惑する。


「残骸回収の為に、敵兵が集まってそうですが」


「そう、残骸さ。それを回収したいな。ネジ1本、装甲の一欠片でもあれば、どういう素材を使っているか、性能はどのくらいなのかを推察するサンプルに出来る」


 確かにそれはそうだが、危険ではないだろうか。


「少し、危険過ぎやしませんか? 我々は2人だけ、武器だって拳銃と……せいぜい飛竜態で出せるブレスくらいです」


 竜が口から吐けるブレス(火球)は確かに強力だ。だが、昔ならいざ知らず、現代の竜は決して強くない。重機関銃の弾なら甲殻なんて容易く貫通するし、対戦車兵器なんて食らったら日には、骨も残らないだろう。


「人の気配があったらすぐに退こう。こんな機会は何度も無いぜ。それに、あの機体が量産されたら厄介だ。対策の為にも敵機体の性能を知れるのは良いとは思わないか?」


「……誰かいたら、すぐに逃げましょう」


 最終的に押し切られる形で、私も同意した。確かに虎穴に入る価値はある。


 最大限周囲に警戒しつつ、私達は黒煙の上がる地点へ向かった。墜落地点は落下の衝撃で木々がなぎ倒されており、焦げ臭い匂いが漂っている。


「さっさと回収して行きましょ」


「うむ。とりあえず……これとこれと、これで良いか」


 散乱した残骸からネジや装甲の欠片。更に何か重要そうな赤い拳くらいの大きさのパーツを適当に回収し、私達は、すぐにその場を立ち去ろうとする。


「……しっ、誰か来る。ひとまず隠れましょう」


 私はかすかな足音を感じ取り、アナベルを伴って、ひとまず草むらに逃げ込んだ。


「人間で一番目立つ部分は顔だ。物理的に顔に泥を塗ろう」


 アナベルはそう言うと、足元から泥をすくって自身の顔に塗りたくる。即席の迷彩という訳だ。


「ほれ、エールも」


「非常事態とはいえ、抵抗感はありますね……」


 私も少し躊躇いつつ、顔を泥で覆う。泥パックなんてものがあったな、と思い出すが、今はそんな、のんきな状況ではない。


 さて、そうするうちに向こうから一団がやってくる。おそらく、ドラコニアの兵たちだ。彼らは小隊規模で、中には何人か研究者の様な格好のものもいるが、どちらにせよ、拳銃一丁で戦える数ではない。


 アナベルは私の方を見て、「しばらく大人しくしてやり過ごそう」と、アイコンタクトをしてきた。同感なのでうなずく。


 視線だけは外さず、拳銃はすぐに抜ける様にした状態で一団を見ていると、そのうち、後ろから1人の女性が現れた。黒髪をロングにして、白衣を着ている。研究者だろうか。竜人の様で、背中からは翼が、尻からは尾が生えている。彼女はこの一団のリーダーの様で、彼女の指示に従って兵士や研究者達は動く。


 何をするのかと見ていると、彼らは墜落した無人機を囲むと、何かの手順でその装甲を解放する。すると、どういう事だろうか。まるで装甲の下には筋肉の様な物体がぎっしりと詰まっていた。さながら、巨大な生肉の塊とでも形容すべきだろうか。なんともグロテスクで、正気度の減りそうな外見をしていた。


 更に彼らは機体の残骸から装甲を剥がし、肉塊の隙間から、何かを探している様だった。


 元々一つの国だけあって、ドラコニア語とレーヴェン語の違いはほとんど無い。せいぜい方言程度の違いだ。よって、彼らの言葉は何となく分かった。


 曰く、『悪竜の心臓』なるパーツが無い! と、ざわついている。


 ……あ、なんとなく嫌な予感がする。聞き馴染みの無いパーツと、今アナベルが持っている謎の赤いパーツ。お誂え向きに、赤い、心臓くらいの大きさである。


 それはアナベルも同じなのか、彼は珍しく少し焦っている。「あ、これ、盗んだらヤバいパーツだったかも」。と、瞳で言っている。


「周囲をよく探せ!」


 そう、リーダーの白衣の女性が指示をだした。…………まずい、こちらにも兵士が来るのも時間の問題だ。

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