42.緊急脱出
「燃料、もう全て尽きます」
「『ホワイトアウト』、機体を捨てる。救助の要請を頼む。……といっても、この樹海からは脱出しないと。ヘリが降りれる場所も無さそうだ」
「了解した、『シルバー』。死ぬなよ」
あれからしばらく飛んでいたが、やがて、機内の航空燃料が全て切れた。エンジンが停止し、機体がグライダー状態になる。
「仕方が無い。脱出しよう」
「一応、まだ、敵との競合地域ですが……」
まだ、眼下には樹海が広がっている。この辺りの地域は、まだ完全に味方が掌握しきれていない。敵兵と不意に遭遇する可能性があるという事である。
「だが、この状態で基地まで戻るのは、いくら俺の技量でも無理だぜ」
「……仕方ありません」
私達は、黄色と黒で塗られた射出座席のイジェクトレバーを引くと、機体から脱出する。キャノピーを突き破って座席が投げ出された。そのままパラシュートを開き、ゆっくりと地面へ降下する。アナベルも脱出に成功した様で、少し離れた位置にパラシュートが見える。
パラシュートは、樹海の木に引っかかって止まった。ナイフでそれを切り離し、木伝いに地面に降りる。
「ひとまず、無事に脱出出来たわね」
ひとまず、コンパスと拳銃、それに携帯食料を2日分持っている。アナベルはどこだろう。パラシュートが見えた方に歩く。樹海だけあって、根っこや地面自体の凹凸のせいで中々歩きづらい。
「このまま合流出来なかったら……」
ふと、そんな怖い考えが浮かんで、すぐにそれをかき消す。ここまで来てお別れなんて嫌だ。
「……お」
木に引っかかったパラシュートがある。どうやら、アナベルのものの様だ。これもナイフで紐を切られた後があり、同じ様に地上にいると思われる。
空はあいにくの曇天になってきている。この前の前線基地襲撃作戦の様に、一雨来そうだ。それまでに合流出来れば良いが……。
そう思いつつ、彼を探していると、少し離れた位置で、竜の鳴き声が聞こえた。
「この鳴き声は……」
間違いない。竜形態のアナベルの鳴き声だ。森の中では、竜の声はよく響く。
「……しかも、これ求愛の鳴き声だし」
そりゃ、戦場で求愛ボイスを出す奴はなかなかいないだろうから、一発で彼だと分かるが、私に向かって発していると考えると、少し恥ずかしい。
私も竜形態に変身し、甲羅を背負った吉弔の姿になると返事の求愛の声を出した。すると、それをみとめたのか、声が少しずつ近づいてくる。
やがて、森の中から銀色の鱗の美しい竜が現れた。間違いなく彼だ。
彼は亀に似た竜である私の姿を確認すると、竜から見慣れた人の姿に戻った。
「良かった! 無事だったんだな!」
「貴方を置いて死ねませんよ」
私も竜形態から人間態に戻って、彼に抱き着いた。アナベルは安心した様に頭を撫でてくる。無意識の行動だろうが、昔、迷子になって彼に見つけられた時と被る。……完全に目が手のかかる妹を見る時の目なんだよなぁ。その事に少し不満を覚えつつ、私達は今後の事について話し合う。
「ひとまず、味方の陣地を目指そう。いつまでも敵と遭遇するかもしれない所にいられない」
「同感です。この樹海では、ヘリも降りられないでしょうし、どちらにしろ開けた場所に出ませんと」
コンパスを取り出し、方位を確認する。味方の陣地は北の方角だ。
「森の中だし、一日20㎞進めればいい方だろう。食糧が尽きるまでに味方に合流するか、救出部隊に助けられるかしたいが」
「行軍訓練や、サバイバル訓練は受けています。何とかなりましょう」
「ポジティブに考えよう。人数が少なければ少ないほど、敵からは見つかりにくい」
「竜形態になって、空を飛んでいくのは? 私は背中に乗るなり、足で掴んでもらうなりして」
「悪くないが、少し危険だな。味方の支配地域ならともかく。競合地域でのんきに飛ぶのは。最悪レーダーに映れば、戦闘機がスクランブルしてくる。なんなら、歩兵用の携帯地対空ミサイルでも、直撃すればバラバラだ」
「残念です」
「昔は20mを超える巨体の飛竜に勝てる奴はいなかったんだが……その大きさのせいで、今はレーダーにも引っかかるし、SAMの良い的にもなってしまうとは、皮肉なもんだ」
「世の中諸行無常って事ですよ」
そんな事を言いつつ、私達はでこぼこして歩きにくい森林地帯を、ゆっくりと歩き始めた。




