39.交戦命令
「最後の1機、俺がもらうぜ」
迎撃に来た敵機は最後の1機になっていた。流石、軍事大国ドラコニア帝国のパイロットだけあって、中々良い腕だった。少なくとも例の九尾を除いたヴェルの獣人達よりは、ずっと。
だが、流石にトップエースたる九尾の狐のマニューバと比べると、幾分か読みやすい。私達は冷静に一機一機と落していき、残ったのは最後の1機。
「これで終わりだ」
アナベルは敵機を照準すると、機関砲の引き金を引いた。弾丸は敵機に向けて吸い込まれていき、羽をもがれた『スティングレー』は墜落していった。
「敵部隊の全滅を確認!……いや、待て」
「どうした『ホワイトアウト』?」
「新たな敵機の反応……? これは……あの塔からだ!」
見ると、まさに塔の頂上が、ミサイルサイロの様に口を開けていた。そこから、垂直に新たな敵機が発進してくる。一見、本当にミサイルでも打ち上げた様だ。
垂直に空に向けて飛び出してきた機体は、空中で一度宙返りすると水平飛行に移行する。
「何だ……この機体は。データに無い、新型だ! 各機、警戒しろ!」
新型機は、私達の方へと一直線に突進してくる。ダークグレーのロービジ塗装で塗られた機体は流線型でデルタ翼の機体だった。コックピットは存在せず、のっぺらぼうの様な印象を持たせる。ラウンデルはドラコニア軍のものだ。
「奴ら、これを隠していたのかな?」
「かもしれません。……ターゲットロック、FOX2!」
私は、のっぺらぼうの新型機に赤外線探知ミサイルをロックオンし、引き金を引いた。他の僚機からも続いて、ミサイルが放たれる。
3本のミサイルは時間差でのっぺらぼうに飛んでいくが、かの機体はそれを急旋回で楽々とかわす。あんな軌道をしたら、中のパイロットはGで失神するのではないかと思う程の、無茶苦茶な軌道だ。
「何よあの動き! 気色悪い!」
「……なぁ、『シルバー』。ありゃ、噂の無人機ってやつじゃないか?」
「だろうな。人が乗っていないなら、あの無茶苦茶な軌道にも説明がつく」
『バグパイプ』が一つの可能性に行き当たる。私も噂には聞いた事がある。いわゆるドローンというやつで、遠隔操縦を行ったり、機体自体に高性能な人工知能を取り付ける事で、危険な作戦でも、無駄な犠牲を少なくして、安全に戦闘を行えるという代物だ。
まあ、戦闘機乗りとしては、仕事を奪われる様であまり面白くは無いが。ドラコニアめ、こしゃくな兵器を実戦投入してきおったか。
「ネクロノミコン隊へ、交戦し、敵新型機の性能を検証せよ」
「あんな無茶苦茶な軌道をする相手に無茶ぶりをしてくれる……」
アナベルは呻くと、僚機に通信を送った。
「聞いたな? あいつと戦えだと」
「ああ、だが、どうする? 俺達も命は惜しいぞ」
部隊に少しの沈黙が流れる。当然、皆怖いのだ。それを破ったのはアナベルだった。
「…………俺が囮になる。『バグパイプ』と『クロスボー』は奴が俺に釣られたら、後方から追いかけてくれ。『ストライク』には、俺の操縦に命を預けてもらう事になるが」
「はは。私とあなたの仲です。今更遠慮は無しでしょう。お供させてください」
「……その命、俺が預かった」
そう言うと、アナベルは機体のアフターバーナーを吹かし、一気に加速した。わざと変則的な軌道をして、無人機を挑発する。
やがて、それに気付いたのか、無人機は私達を追ってきた。向こうもすごいスピードだ。
「よし、釣り上げた。『バグパイプ』、『クロスボー』、間違って俺を撃つなよ!」
「了解!」
「任されて!」




