36.色ボケ気味な吉弔
「へへへー」
私、エール・シンファクシは、だらしなく顔をほころばせている。理由はもちろん、長年の想いがかなったからである。告白のOKを貰って早2日。私とアナベルの距離は今まで以上に近くなっていた。今まで以上に一緒にいる時間が増えた。機体の整備確認をする時も、休憩中も、待機中も大体いちゃついている。一応、空に上がった時は真剣に仕事はするよ。
ここはレッドリー空軍基地の食堂。そこで私は尻尾を上機嫌に振りつつ、『クロスボー』に、事実上の勝利宣言を行っている。
「えへへー、残念でした~。アナベルには私が先に告白しました~。もう粉かけて来ないでね~」
「……随分雰囲気が甘いと思ったら、こいつ、抜け駆けしたわね……」
「いつまでもグズグズしてる方が悪いんです~。拙速ですよ拙速。キョンシーにも書いてあったでしょ?」
「いや、ソンシな?」
『クロスボー』は、私を少し恨めし気に見つつ、私の惚気を、意外と言ってはなんだが、静かに聞いている。
「まぁ良いわ。負けを認めましょう。アタシのアプローチが弱かったのは事実だし」
「何よ、随分殊勝じゃない? はははこやつめ、寝取ってやる! くらいは言うと思ってた」
「私に寝取り趣味は無いわよ。それに、貴女といる時のアナベルは、まぁまぁ幸せそうだし。戦友として、素直に祝福するわ」
「……逆に怖い。何にも無くて怖い。何を企んでるの?」
「別に何も企んで無いわよ。失礼な。アタシは恋愛はフェアにいきたい主義なのよ。先んじられたら潔く負けを認めるわ」
「ピンク髪の男爵令嬢なんて性悪なのがお約束だけど、貴女は潔いわね」
「偏見ね。髪色差別反対」
もう少し修羅場になるかとも思っていたが、あっさりと『クロスボー』が引いた事に私は少し戸惑っていた。
「それより、これからの戦局はより激化していくわよ? くれぐれも、先に死んでアナベルを悲しませないでね。そうなったら、容赦なく私が彼をかっさらうから」
「……肝に銘じておく」
彼女の言う通り、戦争はより激しさを増している。
敵軍はいよいよ、補給線が伸びきって進撃スピードが鈍化し、それに合わせて、こちらの反撃も始まっている。奪われた首都まではまだ遠いが、届かない事は無いだろう。それだけに、油断は禁物である。戦闘機など、被弾して燃え尽きる時は一瞬なのだ。
「待機中のネクロノミコン隊に告ぐ。至急、作戦会議室まで集合しろ。繰り返す、待機中のネクロノミコン隊に告ぐ……」
その時、タイミングよく基地の放送が流れる。呼び出しは我が隊だけだ。早速、何か任務だろうか。
「行くわよ『ストライク』。色ボケしてて死なないでね?」
「お互い様よ『クロスボー』」
「はっ! 言ってくれるじゃない!」
何だかんだいっても自分がこのピンク髪の男爵令嬢を嫌いになれないのは、こうしたさっぱりした部分由来かもしれない。




