34.sideヴェル 来客
同時刻。ヴェル王国。シャール空軍基地。
僕、エルネスト・フェルトワンは、今日も空を見上げて滑走路に降りてくる飛行機を見ている。
降りてきた飛行機は、翼端が真紅に染められていた。通称『スティングレー・カノーネンフォーゲルカスタム』僕の許婚であるハンナ・ヴァルカンの機体だ。かの機体はいつも通りの安定した軌道で、滑走路に降り立った。
基地の兵士達が騒いでいる。なんでも彼女は、今日の出撃で、この戦争においての撃墜10機目を記録したらしい。ヴェル内戦、ヴェル・ドラコニア戦争の時の戦果と合わせて、34機目。ここまでの凄腕は、ヴェルどころか、ドラコニアにだっていないだろう。
だが、それだけに、彼女を後方に下げるという事がし辛くなったという事でもある。機体から降り立つと同時に、基地の兵士達にもみくちゃにされて祝福されている彼女を見ながら、少し複雑な気分になった。
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「どうすればあの傾国の九尾を戦闘機から降ろせるか、どうすればあの傾国の九尾を戦闘機から降ろせるか」
僕は、書類に判子を押しながら、そう自問する。
ドラコニアの竜人どもは、「この戦争は3日で終わる!」と豪語していたが、開戦から早2週間。一向に戦いが終わる気配はない。
とどのつまり、ドラコニアの連中は、レーヴェンの連中を舐めていたのだ。ちょっと不意打ちで殴れば、ビビッて屈服すると思っていたわけだが、実際はビビるどころかブチギレて徹底抗戦を主張し、それを実行に移している。地の利を生かした奇襲や待ち伏せを中心とした、粘り強い抵抗でこちらは攻めあぐねていた。
なまじ、ヴェルや周辺国との戦争を楽々と勝ち抜いてきただけに、彼らは慢心していたのだ。
当然、そんな奴ら相手に戦う事は、それだけ危険があるという事だ。
我が許嫁が、いつも帰ってくると言っても、明日また無事に帰ってくる保証は無いのだ。かといって、自分も戦闘機に乗って一緒に戦うこともできない。民達や好きな女の子に戦わせて、自分は後方でぬくぬくとしているなんて、なんと情けない男だろうと自嘲したくなる。
「殿下。謁見を申し出ている方が」
そんなふうに思いながら判子を押していると、側近の1人が報告してきた。
「誰だ。今日はアポイントは無かったはずだが」
「それが……ドラコニア軍の技術士官を名乗っている方で」
「技術士官?」
何で技術屋が僕なんかに……? 訝しげにしていると、側近は追い返しますか? と問うてきた。
「いや、会おう。ドラコニア軍の方なら粗略には出来ん」
「ははっ。すぐに準備いたします」
……どんな理由であれ、ドラコニアの竜人達の不興を買いたくない。調子に乗ればすぐに潰されるのが今の僕らの立場なのだから。
準備が整って、僕はその士官と会った。場所は基地に来賓が来た時に通される部屋で、それなりに品のいい調度品も揃っている。僕は、その部屋のソファの上座に座った。
「エルネスト殿下にはご機嫌麗しゅう……」
「これが機嫌良さそうに見えるかい? アポ無しな上、私は元々執務中だったのだ。用件は手短に頼む」
僕は露骨に不機嫌そうな顔を作って、口を開いた。大人げないかもしれないが、実際、竜人には良い印象が無いので仕方ない。人種差別すべきでないのは重々承知だが。
技術士官は黒髪ロングの竜人の若い女性で、中々の美人である。まあ、ハンナの傾国の笑みには劣るが。何となく、胡散臭い印象を持たせた。
彼女は、僕の言葉に不敵に笑みを浮かべると、口を開く。
「申し遅れました。私、帝国軍技術大佐相当官、フローラ・ネックと申します。単刀直入に申しましょう。貴方のお力が必要です。力を貸していただきたい」
「……もうヴェルは、十分に君達に協力してるじゃないか。軍隊も没収されたし、新しい税金だって課されている。これ以上、僕の民からの支持率を下げたいのかい?」
まだ犠牲が足りないというのか、こいつらは。僕達獣人は、ドラコニアの竜人達の奴隷になったつもりは無いんだが。戦争に負けるっていうのはこういう事だ、と言われればそれまでだが。
「我々はヴェルの力ではなく、あなた自身の力を欲しているのです」
「私自身の力?」
「はい」




