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33.その頃の姉

 一方その頃、レーヴェン国内某所の安宿の一室。


 ここでは、一人の女性が机に向かって書き物をしていた。床には没にし、丸められた原稿が山になっている。女性はTシャツに短パンというラフな格好だ。


 女性の名前はウィング・リムファクシ。エールの双子の姉である。ここは、彼女が現在拠点にしている宿屋の一室。レーヴェン軍とドラコニア軍が争いあっている前線から、少し離れた地点の町である。この戦争の開戦以来、敵軍の諜報を担当している彼女が、いわば前線基地として使っている場所だ。


 子沢山という事もあり、決して豊かとはいえなかった実家の、その屋敷の自分の部屋よりも、更に小さく、しょぼい部屋だったが、あくまで寝る為と、報告書作成の為の部屋と割り切っているので、大して気にはならない。妹と一緒の部屋だったので、狭いのにも慣れている。


 ウィングは一通り書き終えた報告書を読み直し、ミスや誤字脱字が無いかを確認すると、それまで握っていたペンを一度置いた。


「……よし。敵軍の軍団編成についての報告書はこれで終わり。後は、本部に送るだけだけど……郵便網、生きてるかなぁ」


 最悪、私が飛んで行って直接渡した方が早いか。そう判断すると、彼女は、原稿と前線の様子を写した写真を何枚か封筒にしまった。竜人はこういう時に便利だ。


 ウィングは、冷蔵庫から缶コーラを取り出すと、一気に飲む。書き物で疲れた体に、糖分がよく染みわたる。


 好きになった人を追って軍隊に入った妹と違い、彼女は国の情報機関の諜報員の道に進んだ。動機は、何となく面白そうだったから。スパイ映画が嫌いではなかったからでもある。


 国の情報機関に採用され、スパイの才能はあったので、諜報員・工作員としての頭角をすぐにあらわし、現在も、祖国と隣国の間に起こった戦争の真っただ中を、文字通り銃弾をかいくぐりながら、情報収集と各種工作を続けている。


 壁には、諜報活動で得た、沢山のメモや走り書き、写真が張り付けてある。報告書を書くにあたって事実は一つでも、どこから、どう見るかによって解釈は大きく異なってしまう。特に、戦争の様な大事は。出来るだけ、フラットな立場で見る為に様々な所に行った痕跡だ。


 床には、開戦以降の自国と敵国の新聞が山になっている。掲載された廃墟になった街や、大怪我をして泣き叫ぶ子供や、手足を失って敵国への憎悪に染まった兵士の写真を見ていると、流石に心が痛む。


「早くこんな戦争終わらせなきゃ。この戦争が終わったら、少し休暇を貰いたいわね……」


 なんか、安っぽい死亡フラグみたいだなぁ、と思いつつ残ったコーラを飲み干したウィングは、自分が追っている、もう一つの任務に向き合う事にする。


「……あの塔は、やっぱりヤバいやつかもなぁ」


 ケルベロスの森で建築が行われている謎の塔。これの情報収集も自分の任務の一つだ。やはりこれは、物騒なものかもしれない。開戦前、さらには開戦後の戦争取材の合間に、様々な所に取材を行った時のメモ群に目を落とす。その中には興味深い証言がある。


 開戦直後に、かの国に潜入し、建築の為に動員された兵士に極秘インタビューを行ったものだ。彼は属国のヴェル属州出身の獣人で、ドラコニアの竜人達にあごで使われる事に強い不満を持っていた様で、それなりの見返りを提示したら、喜んで情報を売ってくれた。機密というのは、知る人間が多ければ多い程、漏れやすいものなのだ。


 ・強い魔力を使う事を目的とした施設で、既存の軍事施設とは大きく性格の違う物。

 ・塔は『何か』を操る為のコントロールタワーの様なもの。

 ・『何か』については不明。新兵器?

 ・まだ施設は未完成。『饕餮(とうてつ)の血』なるマジックアイテム? が必要らしい。


 箇条書きにされた走り書きを眺める。ついでに、隣に貼った何枚かの写真も。


 何か、魔法を使う施設らしいというのは合っていそうだ。


 科学技術が発達し、飛行機が音速で飛ぶようになった時代であるが、決して魔法が廃れた訳でない。むしろ、魔法と科学の融合というのは、この世界の技術を語る上で避けては通れないテーマだ。本来、一部の人間しか使えない様な魔法を科学的に解析し、それを誰でも使える科学技術としてフィードバックする。こうして、この世界の技術は発展してきたといっても過言ではない。


 魔法と科学が融合した結果、一部技術については、画面の前の世界よりも優れたものが存在する程だ。


 例えば、戦闘機に使われている塗料。これは魔法技術を応用して作られた素材を使用しており、魔法を応用した力で、ミサイルの誘導性能をかなり低下させる事が出来る。画面の前の世界と違い、空中戦で至近距離でのドッグファイトが頻発するのはこのせいで、そもそも現実世界に比べて、ミサイル攻撃が非常に、非常に当たりづらいのである。大事な事なので二度言った。


「お伽噺の邪竜を復活させる……案外本当にそんな計画かも」


 まさか、そんな事は……妄想や陰謀論の類だ。とは思いつつも、嫌な予感は止まない。


「もう少し、取材が必要かなぁ。スパイとしての感が、こいつはヤバい案件だって言っているんだよなぁ……」


 まぁ良い。ひとまずは、報告書を本部に届けてからだ。ウィングは外行きの格好に着替えると、外で大きな美しい飛竜に変身して、職場へと飛んで行った。


 飛びながら、ウィングは今もどこかで戦っているであろう双子の妹と、乳兄弟の身を案じた。


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