32.告白
「ずいぶんおっかない計画立ててるじゃないか。誰をタックルして押し倒すって? 良くないなぁ、強制わいせつは」
「ひっ?!」
突然、背後から肩を揉まれながら話しかけられ、思わず変な声が出た。果たして、そこにいたのはアナベルである。
「アナベル……」
「突然、どこに行ったのかと思ったが、ここにいたのか」
私は、改めてアナベルに向き合った。彼の貴金属を思わせる金色の瞳は、一等星の様に輝き、私を魅了してくる。おかしい、彼は魅了魔法なんて使えないはずなのに。
彼のその金色の瞳に魅入られつつも、私はせわしなく動いている心臓を落ち着かせつつ、口を開いた。
「すいません。突然、番の事を告げられ、思わず逃げてしまいました」
「ああ、俺も正直動揺している。まさか本当にそんな事があるとはな。どこですれ違ったかな……」
そんな風に、少し気まずそうに頭を掻いているアナベル。そんな彼に、私は座っている距離をさりげなく詰める。
「…………アナベルは、もしも、番がまた目の前に現れたらどうされますか? やはり、結ばれたいと思うのですか?」
「うむ……難しい所だな」
そう言って、彼は落ち着かなそうに指を絡めたり、離したりを繰り返している。彼なりに対応に困っているのだろう。
「今や音速で飛行機が飛び回る時代だぜ。生活だって100年前とかに比べればずっと豊かになった。そんな中で、竜の生態に縛られるってのもなんだかなぁ……って気分もあるし、突然現れた女の子に一目ぼれして、フィクションみたいに、それしか考えられなくなるっていうのも柄じゃないしな。言っちゃ悪いが、そんな恋に生きるタイプじゃないだろ、俺。今まで女の子と付き合った経験も無いし」
「じゃあ、その相手が超絶美少女で、超絶短いスカートをはいて、セクシーな下着をチラ見せながら誘惑してきたら?」
「少しはいやらしい事を考えるかもしれん」
「正直でよろしい。ここで絶対に魅了されん(キリッ)なんて言ってたら、かえって説得力がない」
私の言葉に、お互いにおかしくなって笑ってしまう。この辺の気がおけない感覚は、乳きょうだいという、独特な間柄の相手特有の感覚だろう。こちとら、赤ん坊の頃から一緒の仲である。相手の思っている事など、手に取る様に分かる。さながら、東の国に伝わる妖怪『サトリ』の様に。
「……もう、このままリラックスした流れで、言ってしまいますね。アナベル。私は、貴方をお慕いしております」
「……」
「……顔も知らぬ番なんぞに負けてやる義理はありません。吉弔とて、その位のプライドはあります。お願いします。相棒の乳きょうだいとしてではなく、一人の女性として一生、貴方のお傍にいさせてください……いや、一生は重いか。ひとまず、私と恋人になっていただけませんか?」
その言葉を聞いたアナベルはゆっくりと目を閉じた。眠ったわけではあるまい。答えを考えているのだろう。
永遠にも感じる時間。やがて、静寂は破られる。
「いや、まぁ、エールが俺に気があるってのは何となく察していたよ」
「ご存知でしたか」
「いや、あれで隠していたつもりなら、逆に大したもんだが……」
「して、どうなされますか? 将来的に、吉弔を妻にする気はありますか? もし本気なら、私は貴方に今まで以上に尽くしますが」
それを聞いたアナベルは、軽く頭を掻いた。
「……エールの事は正直、妹分としか見れないんだよな」
「駄目、ですか?」
表情が曇るのが自分でも分かる。やはり、自分では役不足だろうか?
「だが、女の子にここまで言わせておいて、断るのも色々と駄目な気もする」
「っ! そうでしょう、そうでしょう! アナベル、貴方は忖度とかは苦手ですが、それくらいの空気は読める人でしょ!」
「だから、しばらく移行期間って事でプラトニックな関係でいたいんだが、どうだ?」
なるほど、妥協案という事か。
先述の格言でも多少妥協しても良いから、早く終わらせるのが第一って言っていたな。
私は、それを思い出し、彼の提案に合意する。
「良いでしょう。自分で言いだしたんですから、Hな事はしちゃ駄目ですからね。もしも胸やお尻に触ってきた日には、そのまま婚姻届を提出して責任取ってもらいますから!」
「はは、こちらから言った手前、それくらいの線引きは必要だわな」
「ち、チューも駄目ですよ! 破廉恥です! ……て、手をつなぐくらいなら……」
「そういえば、だいぶ初心だったわ、この子」
微笑ましげに私を見つめてくるアナベル。駄目だ、完全に恋愛対象じゃなくて、可愛い妹を見る目になってる。一応、同い年なんだけどなぁ……。
「末永く、よろしくお願いします」




