31.逃げた先で
レッドリー空軍基地の一角。兵舎の廊下の端。
ここには自販機とベンチが置いてあり、簡易的な休憩所になっている。そこの1つに座り、缶コーラを飲みながら、私は呼吸を整えている。甘い清涼感のある味は、心を落ち着かせるには有効だった。
「大丈夫大丈夫。必ず番とくっつかないといけない決まりは無い。まだ十分、私にも勝機はある。うちの両親を見てみなさい。番同士でもないのに、あんなにポンポンポンポン子供産んでるじゃないですか。番同士でも無いのに、異世界恋愛じゃなくてノクターンのノリで生きてるじゃないですか、大丈夫大丈夫平気平気」
そう、ある種の自己暗示を行い、心を穏やかにした。そうとも、こちとら赤ん坊の頃、あの人が生まれた時からの付き合いなのだ。『クロスボー』は勿論、顔も知らない番なんぞに負けるつもりはない。
「……自分で思っていた以上に、私はアナベルをお慕いしていたのだなぁ」
すでにどこかでアナベルが、番と会っていたという事実に耐えられずに逃げたという事は、それだけ、私が、自身で思っていた以上に、彼に対して恋愛感情を持っていたという事だ。
なーにが「主人と従者という今の関係を壊したくない」だ。がっつりそれ以上の関係に進みたがっているではないか。
「少し気まずい……」
こうして改めて自分の恋心と向き合ってみると、アナベルと顔を合わせるのが気まずくなってくる。
とはいえ、このまま逃げる訳にはいかない。アナベルは人気者だ。ただでさえ『クロスボー』という強力なライバルがいる上、すでにどこかでニアミスしたであろう番や、下手すると他の女性兵士も恋のライバルたりえる。以前姉に言われた通り、乳きょうだいという立場にあぐらをかいて、ぼやぼやしてると、横から掻っ攫われてしまいかねない。
「私が先に好きだったのに……」と脳を破壊されながら後悔するのは、あまりにも情けなさすぎるぞ私。
なんなら明日の身もしれぬ、戦闘機乗りという身分。いつまでも彼が生きているか、という問題もある。隊長ですらやられてしまったのだ。もしも、またあの九尾の狐に空で会うようなことがあれば、今度こそ、無事で済む保証はない。
「……告白しよう。拙速だ」
私は残ったコーラを飲み干して、覚悟を決めた。やらずに後悔するより、やって後悔したい。
『兵は拙速を尊ぶ』という言葉がある。以前、『クロスボー』が話していた異世界から流れ着いてきたとされる本、確か、キョンシーだかソンシーだかいったか。
その中の一節で、ざっくり言うと「戦争はズルズル引き伸ばせば引き伸ばすだけ不利になる。故に、早期終結を目指さなければならない。多少妥協してでも」みたいな意味だ。
恋愛でも、いつまでもグダグダやっているのはよろしくない。さっさと決着つけるのが一番だ。ストレートに好意をぶつけよう。
……もし、断られたら、その時は泣きながらやけ酒して忘れよう。
「いや、最悪背中の甲羅でタックルして押し倒して、無理やり既成事実作ってもいいけど……私の悪質タックルを食らって、立っていた者はいなかった」
…………あの人は律儀な所があるから、もし子が出来たら、なんだかんだで責任を取ろうとするはずだ。赤ん坊の頃から一緒の私が言うのだ、間違いない。




