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29.運命の番

 

「……では、隊長殿の遺品、確かにお預かりします。必ずや、遺族の元まで届けます」


「よろしくおねがいします」


 あの空戦から、2日が経った。無事に帰還した私達は、基地で味方を守るべく奮戦した英雄と称えられた。だが、上官であり、師匠でもあった隊長が亡くなった後では、素直に喜べなかった。


 当然、まだ、戦争は終わっていない。


 今日は、あの空戦で戦死した搭乗員達の葬儀を基地で行い、今は彼らの部屋に残された遺品を、残された隊員達で整理した所だ。配送係の兵士に、まとめた遺品を預けた。


 運送用のトラックに丁寧に積み込まれたそれは、遺体の無い彼らの遺族にとっては、遺骨代わりになるものだ。当然、扱いは丁寧になる。


「これは……『ボルケイノ』の野郎のか」


 アナベルは、隊長のものの次に積まれる段ボール箱を見た。


「ああ。俺も少し整理を手伝った」


 そう脇にいた『バグパイプ(オスカー)』が言う。心なしか、声が少し寂しげだ。


 全ての遺品を乗せたトラックが出発する。基地の入り口で、それが見えなくなるまで敬礼して見送った私達は、基地の休憩室で少しとりとめの無い話をした。戦死した戦友達の思い出話が主だ。


「『ボルケイノ』の奴、嫌な野郎だったが、いざいなくなると寂しくなるな……」


「まったくだ。ああ、そう言えば奴の遺品整理をしていて驚いたが、あいつには『運命の(つがい)』がいたらしいな」


「『(つがい)』? あのお伽噺とかに出てくる?」


「ああ、そうだ。マジモンらしいだぜ」


「驚いたな。今日日、そんな話が実際にあるなんて」


 少し驚いたように言うアナベル。無理もない。


 『運命の番』とは、竜人族がもつ特殊な生態である。不思議な事に竜同士、性格的、身体的に極めて相性の良い組み合わせというものが存在するのだ。


 いや、極めて相性が良いどころか、その相手とセッ……全年齢版のこの場で、この言葉を言うのはあえて濁すが、ともかくその相手と結ばれれば、身体的、精神的に竜人は大きな強化を得られるとされている。


 まあ、別に番で無ければ結ばれてはいけないという決まりは無いが。現に、うちの両親は、番では無いが仲は良いし、子沢山だ。


「どうも今の恋人殿と出会った後、翼に、赤い紋章が浮かび上がったらしい。日記に書いてあった」


「伝承通りってわけ。……死人とはいえ、他人の日記を盗み見るのは良い趣味じゃないな」


「いや、一応、ヤバいこと書いてないか確認する必要あるし。嫌だろ、実はテロ組織の一員でスパイとして潜入してました、とか」


 隣にいた『クロスボー(アリス)』も話に入ってくる。


「聞いた事があるわ。運命の番と出会った竜人は、翼に赤い紋章が浮かび上がるって」


「翼ねぇ……」


 私は、背中のコンプレックスを刺激されて、複雑な表情になる。何度も言う通り吉弔種には背中に、翼の代わりに甲羅が生えている。そこに番の紋章が浮かび上がった、なんて話は聞いた事が無い。……吉弔(きっちょう)に番は必要ありませんかそうですか。


「ま、既に竜人全体の世界人口は一億人以上、ハーフやクォーターを含めれば更にいるだろう。そういう生態があっても、発動しない事が多いらしいがね。何しろ、ぴったりと番といえる相手は、1人だけだというし」


「それだけに、番と出会った『ボルケイノ』は運が良かった、と。……幸運、全部そこで使い切っちゃったのかしら」


「さあな。恋人殿の所にも、今頃死亡通知が届いてるだろうが…………俺なんかをライバル視して功を焦りおって、馬鹿な奴だ」


 アナベルは、侮蔑と同情の混じった複雑な表情をしている。


「番が見つかった事で、能力的に覚醒して、気が大きくなってしまったのかもしれませんね」


 私は先ほどの能力強化の話を思い出した。それなりに腕が良かったのも、その影響かもしれない。


「逆に言えば、それを倒したあの赤いスティングレー、只者では無いでごわすな」


 それまで話を聞いていた『バグパイプ(オスカー)』の相棒の『マンティス』というTACネームの男が口を開く。彼は地方の出身で独特な訛りがある。


「……隊長の仇ではあるが、それだけに称賛に値する。我々も負けてはいられない」


「同感だ、『シルバー(アナベル)』。ヴェル属州の畜生共の中にも、そんなツワモノがいるんだ。兜の緒を締めていこう」


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