26.Sideヴェル 愛の重い狐
「勿論、殿下の事は愛しておりますよ。こんな優しくて可愛らしい少年、どこを探しても見つかりますまい…………ええ、愛しておりますとも。逆に何が不満だというのです。私はこんなにも貴方に尽くしているというのに……まだ、血が足らぬというなら、これからも何百機でも戦闘機を、爆撃機を、偵察機を、戦車を、トラックを、MRLSを、大砲を討ち取ってご覧にみせましょう。そして敵の屍とスクラップで山を築きましょうとも」
「……答えは分かっていたけど。……僕の本音は、ただ隣に居て欲しいだけなんだけど」
「隣にいただけでは、守れるものも守れませぬ」
ハンナは僕を抱きしめてキスをしてくる。柔らかい彼女の身体に包まれて悪い気はしないが、その瞳がどこか虚ろで、ハイライトが消えている様な錯覚を感じる。
「私は貴方を愛しています。恐らく、貴方が思っている以上に、ずっと」
「ハンナ?」
何故か、最愛の人の笑みにぞくりとさせられた。
「貴方が望むならどんな空にでも飛んでみせましょう。対空砲の弾幕が覆い尽くす空でも、敵のエースが待ち伏せている空でも、それこそ、おとぎ話の聖女伝説で出てくる邪竜が覆い尽くす空だって」
「ハンナ……前々から少しその傾向はあったけど、少し愛が重いよね」
「私の過去由来かもしれませんね」
ハンナは僕の頬にキスをすると語り始める。
「貴方には初めて語りますが、あまり、私は実家では良い扱いは受けていなくてですね。まあ、ありがちな話として、原因はこの尻尾ですね」
「このもふもふな尻尾かい?」
「はい。殿下、こんな迷信を知っていますか? 九尾の狐は傾国の相がある」
「ああ」
有名な迷信だ。狐獣人、それも九尾の狐は国を滅ぼしてしまうから産まれたら殺さなければならない。
かつて、九尾の狐獣人がとある国の権力者に取り入り、堕落させ、ついには国を滅ぼしてしまったという伝説から、九尾の狐は危険だと昔から言われている。
忌まわしい、まるで科学的根拠の無い、デタラメな言い伝えだ。現在では当然産まれた赤子を殺すのは殺人として重罪になる。
だが、それでも九尾の狐獣人が、偏見の目で見られる事は稀にあるという。
「……うちの家族は迷信深い一家でしてね。虐待、とまではいきませんが、まあまあ不遇な過去を送ってきました」
あえて言及しなかったが、彼女の表情を見ていると、どんな扱いを受けていたかは察する事が出来た。
「戦闘機乗りになるって言って、家を飛び出したのはその辺りの事情もあったの?」
「いまいち心休まる場所では無かったのですよ。我が家は」
そのまま、彼女は相変わらずのハイライトの消えた瞳で、僕を見つめてくる。
「……ですから、私は愛情に飢えているのですよ。誰かに必要とされたい。愛したいし愛されたい。…………貴方は私を唯一、必要として愛情をくれた人です。であれば、私もそれに応えるまでです。幸運にも、私にはこの戦闘機乗りとしての腕がある。貴方の敵を全て殺して殺して殺しつくてみせましょう」
「だから怖いよ……」
「そうだ、貴方がふらりとどこかに行ってしまっても良い様に、貴方にこれをあげますね」
そう言って渡してきたのは、チョーカー……というより、猫や犬にする様な首輪である。
「……なんだい? これは?」
「プレゼント。チョーカーです」
「いや、どう見ても首輪……」
「チョーカーです。ついでに、探知機能もついている魔法道具でもあります。貴方がどこにいても、私が頭に念じるだけで位置が分かる優れモノです。つけてください」
「いや、でも……」
「つけてください。……つけろ」
少し背筋が寒くなりつつも、しぶしぶチョーカー(?)を身に着け、彼女の9本の尾のもふもふを楽しんでいると、突如として基地内に警報がなり響いた。
「……ガポス平原の物資集積所が、敵の大規模な空襲を受けている。全パイロットは速やかに発進、これを迎撃せよ! 繰り返す。ガポス平原の物資集積所が、敵の大規模な空襲を受けている。……繰り返す」
ハンナはそれを聞くと、複雑に僕に絡ませていた9本の尾をほどく。
「すいません、出撃命令です。行ってまいります」
「……行くな、と言っても行くんだろう?」
「……」
僕は溜息を一つついた。
「必ず帰ってきて。それが約束。それが出来ないなら、僕のあらゆる権限を使って、君を後方勤務に回す。婚約破棄されたって構わずやる」
「はは。必ずや。……一言、命じてくれませんか? 敵を殺してこいと、貴方からの命ならやる気が違います」
「……命令だ。殺してこい」
「ははっ! 我が主の敵を皆殺しにして参ります」
そう言うと、ハンナは走って部屋を出て行った。1人残された部屋で、僕は不貞腐れながらベッドに倒れこんだ。
「九尾の狐は傾国の才がある、ねぇ……。中々どうして王子の心をかき回してくれるじゃないか」
この辺からエースコンバット7のオマージュ多めです。
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