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24.噴火

「250㎏爆弾ありったけ持ってこい! 空対空ミサイルは自衛用の2発だけだ」


「燃料補給急げ!」


「おい、インチネジとセンチネジを間違えた馬鹿はどいつだ!? これだと空戦中にキャノピーが外れるぞ!」


 格納庫では着々と出撃準備が行われている。夜間任務ゆえ、パイロットたちは少しばかり睡眠をとり、作戦に備えた。私達も例外ではなく、しばし夢の世界に旅立った後、出撃準備を整えて各々の隊の機体がある格納庫に向かった。そこでは、整備兵達が私達の機体のコンディションを整えてくれている。……最後にやらかした馬鹿はどこのどいつだ。


「いよいよ、出撃前って感じがしてきたな」


「ええ。……いいかげん、対Gスーツの圧迫感には慣れましたが、どうも、この口の中が酸っぱくなる緊張感には慣れません」


「人間にも竜にも恐怖心ってものがあるからな。むしろ正常な反応だぜ」


「そういえば、以前言っていた悪夢は?」


「今日もがっつり見たよ。日に日に情景が鮮明になっている気がする」


「……何か、呪われる様な事しましたか? 変な祠を壊したとか」


「そんな身に覚えは無いんだが……」


 そんな事を言いつつ、私達が2人で作戦についての最終確認をしていると、1人の男が話しかけてきた。


「よぉ、銀髪野郎。相変わらず、竜の出来損ないの亀さんと仲良しみたいだな」


「亀……」


「……『ボルケイノ』。何の用だ? 彼女は吉弔(きっちょう)だ。亀じゃない」


「似たようなもんだ」


 明らかに悪意をにじませた言葉と声色で話しかけてきたのは、なんとなく軽薄そうな雰囲気を漂わせた男だった。


 彼のTACネームは『ボルケイノ』。この基地に所属する隊の一つ、エイボン隊の2番機を務める男である。いきなり、人の事を出来損ないの亀呼ばわりしてきた事から分かる様に、あまり人格的に優れた男ではない。前々から、アナベルを一方的にライバル視して突っかかってくる迷惑な奴である。


「わざわざ竜もどきを傍に置いてやるとは、銀髪の坊ちゃんはお優しい事で」


「なんだよ、露骨な挑発してきやがって……良いか? 人の容姿いじった時点で口喧嘩はお前の負けだ。俺に構ってる暇あったら、自分の機体の調整しておけ。しっ、しっ」


 煽りに乗らず、適当に受け流そうとするアナベル。私もコンプレックスをいじられて腹が立たないと言えば嘘になるが、今、彼と喧嘩して良い事も無い。私も怒りをおさえつつ、無視を決め込む。


「…………今日の作戦では、必ず戦果を挙げてやる。お前にいつまでもデカい顔はさせないぜ」


「ああ、頑張ってくれ。敵を討つ事は祖国の為になる」


「余裕ぶりやがって、今に吠え面かかせてやる」


 そう言うと、『ボルケイノ』は嵐の様に去っていった。噴火(ボルケイノ)、というTACネームそのままな性格である。


「なんなんですか、あの人! いきなり喧嘩売ってきて、人のコンプレックスまでいじってきて……!」


 亀もどき、という吉弔(きっちょう)種が一番腹を立てる蔑称を言われて、思わず私は不快感を露わにした。


「落ち着けよ。性格の悪い奴は、どこの職場にも1人か2人はいるもんだ」


 そうアナベルに言われて少し頭を冷やすが、それでも、あまり気分の良いものでは無い。背中の甲羅の部分でタックルしてやろうか。


「そねまれているのさ、あいつに」


 そう声をかけてきたのは、『バグパイプ』こと、オスカーである。


「そねまれている?」


「ああ、そうだ。男の嫉妬は面倒くさいんだ」


 ?マークを頭上に浮かべているアナベルの肩を抱いて、少し小さい声で『バグパイプ(オスカー)』は続ける。


「あいつの実家は侯爵家だろ。そこの3男坊」


「ああ。そう聞いている」


「お前さん達は伯爵家とそこに仕える家の出身。それなのに、階級は同じ中尉。それもあいつの方が年齢は少し上ときた。典型的なプライドばっかり高い貴族の坊ちゃんだからな、あいつ。色々と溜まってるんだろ」


「面倒くさいねぇ……」


「しかも、この前の戦闘で、エイボン隊の一員として先行して空に上がっていたのに、奴の撃墜数は0。それに対してお前さん達は、単独撃墜1、共同撃墜1。焦りもあるのかもな、このままじゃあ、恰好がつかないって」


 『バグパイプ(オスカー)』の言葉を聞いて、アナベルは溜息を一つ。


「こういうのがあるから面倒くさいんだ、貴族って。苦手なんだよ、空気読んで忖度するとか」


「俺は平民出身だが、同情するよ」


 ……アナベル、本質的には戦闘機カッコいい! 妹分の乳きょうだいと一緒にお空を凄いスピードで飛び回りたい! あと空戦超楽しい! って思いでここまで来た節があるからなぁ……。こういう人間関係の機微を感じ取るみたいなのは苦手なのである。


「後ろから撃たれない様に気をつけておけよ」


「冗談でも勘弁してくれ……。流石にそれをやられたらやり返すぞ。俺1人だけじゃなく、大事な乳きょうだいまで危険にさらされたら、相応の報復はする」


「しばらく、『シルバー(アナベル)』の後衛には俺がついてやるよ」


「頼むよ。『バグパイプ(オスカー)』」


 そんな事を話していた辺りで、機体の準備が終わったらしい。整備兵が私達を呼びにきた。


 それからはいつも通りの手順で離陸し、一路、ガポス平原に向け、編隊を組みながら飛ぶ。手を伸ばせば地面に届きそうな程、超低空で飛んでいる事以外はいつも通りだ。基本的にレーダーは物体が低い位置にあればあるほど、探知しづらい。


 しばらく飛ぶと、いよいよ、ガポス平原が見えてきた。私は兵装のロックを解除した。いつでもトリガーを引ける態勢になる。


 夜明け前の空は曇天で、今にも一雨来そうな雰囲気だ。


「攻撃開始!」


 空中管制機からの指示と同時に、私達は基地の上空に到達すると一斉にトリガーを引いた。狙いは敵の格納庫、及び、起動前の対空兵装である。機体下部に吊り下げられた爆弾が次々と投下され、地上に花火を咲かせた。


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