2.銀の竜
「いつまで、空を眺めているのです?」
「もう少しだけ!」
私は、自慢の翡翠の様な瞳で、目の前の銀髪の少年を眺めた。彼は朝からずっと空を眺めている。私は、少し呆れつつも、彼の脇に腰掛ける。
彼がこんな風なのは今に始まった事でもない。批判するだけ無駄だと、今までの短い人生でも分かっている。
頭上には雲一つない青空が広がっている。それを引き裂く様に、1機の流線型のジェット飛行機が白い飛行機雲で直線を描いた。
「かっこいいなぁ、飛行機って」
「……本当に飛行機馬鹿ですね。我が主様は」
まぁ、好きなものに対しては常に全力。というところが彼の良い所ではあるのだが。
先頭を行く戦闘機……変な洒落じゃないよ? その派手な色のジェット戦闘機をうっとりと眺めるのは、私、エール・シンファクシの乳兄弟で、私の主にあたる伯爵家令息アナベル・リムファクシその人である。
ちなみに私のシンファクシ家は伯爵家から派生した家で騎士階級。代々、この家にお仕えしている。リムファクシとシンファクシ、我ながらややこしい姓である。
この国、レーヴェン王国は竜人達の国だ。
竜人には、ある程度の階級の貴族の子は、ある程度の年齢まで、配下の家族のうち同時期に出産した母親を乳母に任命して、その家で育てさせるという風習があり、それもあって私達は本物のきょうだい同然に育った。
母上は私達が双子かつ、かなり若い歳で産んだので、だいぶ苦労したとは思うが、そこはやたらハイスペックな父上がスパダリっぷりを発揮して何とかなった様だ。
アナベルは、すでに実家に帰っているが、私にとって彼は今も大事な存在だ。
歳は同い年の8歳。リムファクシ伯爵家の5男。その顔は元々中性的な少女にすら見える外見であるのに加え、目をキラキラと輝かせて、可愛らしい事この上ない。刃物の様な銀髪と銀の尾も星の様な金色の瞳も綺麗だし、頭に生えた龍の角も可愛らしい。
名前からして、『アナベル』なんて女の子みたいな名前だし。……失礼ながら、伯爵様はネーミングセンスはイマイチな様だ。
本人は男らしい男になりたいと思っているらしく、私が可愛いと言うと怒るが、怒った顔も可愛らしいので、もう諦めて欲しい。
そして、わざわざ屋敷の近くの小高い丘にきて、練習中の空軍のアクロバットチームの編隊を見て顔を輝かせている通り、飛行機大好き人間である。
一応、私もアナベルもレーヴェン王国の貴族に相応しく、竜人である。竜人であるのに、それを散々に打ち負かした飛行機をうっとりとしているのはどうかとも私は思うが。90年経っても竜人の中には飛行機に対して、ある種の恐怖とコンプレックスを抱いている者も多い。まあ、この子にはそんなコンプレックスは皆無な様だが。
「……空は良い。それに、空を自由に飛べる飛行機も」
「飛ぶだけなら、我々竜人族でも出来るでしょう」
「俺達が竜形態になった所で精々時速200㎞も出ればいい方だ。あれを見ろ、軽々と音速を突き抜けているよ」
見ると、編隊を組んだジェット戦闘機が鼓膜を震わせる爆音を立てながら、一気に頭上を駆け抜けていった。一糸乱れぬ動きはさながら雁行の如し。
「あそこまで速いと目が回りそうです。はぁ……。屋敷の近くに空軍の飛行場があったのは良い事か悪い事か……」
私は脇にいる美少年を眺めながら、1人愚痴る。大昔から、彼に付き添われて1日中、空を眺めている日が多かった。私だってカッコいい飛行機は嫌いじゃなかったし、彼は私の主人である以上、放っておくわけにもいかないし、彼のキラキラした顔は私も好きなので、まぁギリギリ耐えられている。
しかし、本当にタイプだなぁ、この子。と、主従としては抱いてはいけない感情を抱くのは何度目だろうか。私はいけないいけないと、軽く自身の頭をつついた。
2人の姓はエースコンバッ〇シリーズに出てくる超兵器から取っています。
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