17.悪夢
「気にしないで、空振りなんてよくある事よ。それより、アナベル君。本屋から出てきたけど、何か買ったの? まさかHな漫画とか? 駄目よ、妹が嫉妬しそうなもの読んじゃ」
「さすがの私も二次元相手に嫉妬はしませんよ!」
「違うよ、心外な。ま、なんだ、少し悩みがあってな」
アナベルは、紙袋に包まれた本を取り出した。はたして、その本の内容は、睡眠について書かれた健康関係の本だった。
「睡眠……? アナベル、眠れていないのですか?」
「眠れてはいる、眠れているんだが……どうも、最近、悪夢をよく見る様になってね。睡眠時間は十分なんだが、寝た気がしない」
「大丈夫ですか……? 軍医殿に相談してみれば?」
「そういう方向も考えてはいる」
辟易した様子で眉間を押さえるアナベル。だいぶ辛そうだ。
「悪夢ってどんな感じの……? 言いたく無ければ、言わなくて良いけど」
「ああ、夢の中で俺は笛を吹いている。後ろからそれに合わせて、ぶよぶよの肉の塊の様な怪物がついてくるんだ。東洋の妖怪にぬっぺふほふってあるだろ? あんな感じの」
「「うわっ、気持ち悪っ……」」
思わず、姉と声がかぶる。この辺り、双子なのだなと思う。
「やがて、肉の塊達はドラゴンに変化して、俺はそいつらの先頭に立って、謎の洞窟に入った所で目が覚める」
そりゃあ、悪夢といって過言では無い。何か精神的な原因があるのだろうか?
「アナベル、少し働き過ぎかもしれませんよ……」
「そうそう。よくドラコニアの連中がちょっかいかけてくるんでしょ? 毎日空を飛んでたらそりゃ疲れるわよ……」
「別にそこまで肉体的疲労は感じてないんだがなぁ。エールと一緒に空を飛ぶの楽しいし」
「聞きました妹様? 一緒にいると楽しいですってよ。早く結婚しちゃいなさい」
「いや、言葉の綾ってやつでしょ。それに、いきなり結婚は飛躍し過ぎでしょ」
流石に少し気まずくなったのか、アナベルは頬を染めて目線をそらしている。
そんな妙な空気になりながら歩いていると、駅についた。流石に駅前は少しは賑わいがあり、幾つか商店や飲食店が並んでいる。