15.姉の目はごまかせない
「こちらも修羅場は何度も潜っているし、大丈夫大丈夫」
そう言うと姉は、それまでのシリアスな顔を少し崩した。
「……で、話は変わるけどアナベル君とはどこまで進んでるの? キスくらいはした? それともHな事まで……」
「ぶっ!」
突然そんな事を言い出して、私は思わず噴き出してしまった。
「いやいや、アナベルとはあくまで乳きょうだい同士、主従ですよ。そんな事しないわよ!」
「嘘つけ。あんたは昔からアナベル君にベッタリのネットリ。なんなら、私を含めた女の子と彼が話してると、それを見ながらヤキモチで凄い顔する様な子だったでしょうが。双子の姉、それも諜報部員の目を誤魔化せるとでも? あんたが彼に惹かれている事は見れば分かるわよ」
「……」
そう面と向かって言われて、少し自分の気持ちに向き合ってみる。
……確かに自分は彼に恋をしている。だが、同時にこんな思いをもっていて本当に良いのかという気持ちもある。
紛争地帯の国境線の様にぐちゃぐちゃな心。身分も違う。主人と従者という今の関係を壊したくないという想い。そんな考えが泡沫の様に浮かんで消えた。
そんな私の心中を察したのか、ウィング姉さんは溜息をついて口を開く。
「…………まだ答えが出ないなら良いわ。でも、あの子は、本当に男かってくらいの美少女顔で、かつ身分も、戦闘機乗りという肩書も良い。ちょっとスケベだけど性格も良好。ぼやぼやしてると、別の女の子にあっさり盗られちゃうわよ。そんな事になったら、貴女は心を病みかねない。いや、断言する、100%ヤンデレストーカーになるわ、あんた。最悪刃傷沙汰やらかすわよ」
「ご忠告、感謝するわ。心得ておく」
双子の姉までそんな認識な事に、複雑なものを感じつつ、私はそう返事しておいた。そりゃ重い女な自覚はあるけどさ。
「お姉ちゃんとしては2人がくっついてくれると。色々と面白いと思ってるんだけどね~。伯爵様も貴女相手なら許してくれるだろうし。あれよ、アナベル君、割とムッツリだから、こっちから積極的に誘って、なし崩し的にベッドに……っていうのが一番手っ取り早い気がするけどね」
「そんな父上が母上にやったみたいな……」
「結局、世の中、行動したものが勝つのよ。悪い国が他国の土地を占領して実効支配しちゃうと、だいたいそのままかすめ取られちゃうじゃない? それと同じよ」
諜報部員らしい、よく分かる様な、よく分からない様な例えである。
「変な例えね……。ま、一応、心には留めておく」
「なんなら私から彼に言ってあげようか? さっさとうちの妹抱きなさい。こじれてからじゃ遅いって。大丈夫大丈夫、父上や母上が何か言ってきても特大ブーメランにしかならないから気にしなくて良いわ」
「ありがとう。でも、さすがにそこまでするのはお節介が過ぎるわよ」