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14.八つの頭の竜と聖女

 写真は何かの塔の様で、高さは50m程。建設地域はどこかの森の奥地の様だ。賢明なる読者諸君に分かりやすく例えると、中南米のピラミッドの様な形状と言えば分かりやすいか。


「ドラコニアの軍がケルベロスの森の奥地で何かを建造しているの」


「何か、ねぇ……軍事設備というより、宗教的な儀式に使いそうな建築物に見えるわね」


「軍人として、こんな施設は知らない? 今日わざわざ貴女を呼び出したのは、それを確かめたくて」


 そう言ってウィング姉さんは、持参した資料のいくつかの部分を示した。分かり易い様に、マーカーで印がつけられている。


「ドラコニア軍の予算の資料なんだけど……使用用途が隠された金の動きがあるの。こんな金額が動いているって事は、それなりの事を裏でしていると言っている様なものよ……何か、我が国や周辺国の安全保障を脅かしかねない秘密兵器の類を作っている、と私は見ている」


「根拠なしの憶測は陰謀論と大差ないわよ? まぁ、ドラコニアの連中とはお世辞にも仲良しこよしとは言い難いから、警戒しておくに越したことはないけど…………」


 いくつかの角度で撮られた写真を眺めるが、やはりこの塔の様な建物に見覚えは無かった。


「分からない。でも、軍事用の施設には見えない。ありえるとしたらレーダーサイトとかだけど……こんな形状のもの見た事ないわ」


「うーん。軍事的なものでは無い……? でも、建造には軍隊が動員されているしなぁ」


 むむむ……と唸りつつ考え込んでしまった姉さん。そんな彼女に構わず、私は話を続ける。


「ケルベロスの森……と言ったら、お伽噺の『八つの頭の竜と聖女』のお話の舞台ね」


『八つの頭の竜と聖女』とは、この辺りではよく知られた昔話だ。


 昔、この地にはとても邪悪な竜が住んでいた。その邪悪な竜には頭が8つあり、とても頭の良い竜だった。その竜は考えた。人族が生まれて数万年。人間も獣人も竜人も、それだけの年月をかけても愚かにもお互いに争いを続けている。自分が神として君臨し、彼らを適切に管理するべきだ。そう判断した彼は、徹底的に管理されたディストピアを作ろうとした。


 彼は、自身の眷属として72匹の小竜を生み出し、それを尖兵にして周辺の土地を侵略していく。


 そんな暴走状態の竜達を止めたのは、魅了魔法を使える1人の少女だった。魅了魔法というのは、簡単に言えば、他人の感情を書き換え、自身への好意を意のままに操れるというこれまた恐ろしい魔法だ。


 だが、心優しい性格だった彼女は、そんな力を自身の為には使わなかった。それどころか、自身を持てる全ての力を使い、竜達を封印する事に使ったのだ。方法は自身の魅了魔法を応用し、魅了魔力を込めて笛を吹いて、その音色で暴走する全ての小竜達の自我を操り、地中深く掘った大穴に誘導し、小竜達を眠らせる事に成功したのだ。


 更に、その後の八頭の竜討伐にも参加し、勇者と共にこれを討ち取ったという。


 ただし、彼女は無茶をし過ぎた。八頭の竜が倒れるのを見届けると共に、あまりにも強大な魔法を使った彼女は力尽き、二度と目覚める事は無かった。


『聖女』。そんな風に彼女が呼ばれるのは時間の問題だった。実際、大した自己犠牲精神だ。私が同じ立場だったとして、同じことが出来るだろうか。いや、出来まい。そんな風に思う。


 その小竜達が眠っているとされる森がケルベロスの森である。ドラコニアめ、聖女様の眠りを妨げるような真似を……。


「何かよからぬ事が起こりそうな気がするのよねぇ……。ケルベロスの森っていう場所も聖女伝説と被って嫌な感じ」


「……封印された子竜を復活させようとしている。とでも?」


「そうまでは言わないけどね」


 ウィング姉さんは注文したコーヒーを飲んで一息つくと、写真と資料を鞄へしまった。


「ま、軍人目線で知らないなら良いわ。こちらでもう少し探ってみる」


「気を付けてね。こんな真相知らない方が幸せだった……なんて結末になったら笑えないわよ」


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