13.双子の姉
「ドラコニアの内部がきな臭い」
おもむろにそう口を開いたのは、私と同じ顔を持つ双子の姉だった。
レッドリー基地の場合、通常時は5チームのローテーションで訓練、機体整備、スクランブル待機、休息といった具合に任務を回している。オスカーが前に雑誌を見せてきた飛行訓練の日から早くも約2ヶ月が経った。今日は私達『ネクロノミコン』隊は休暇の日で、私はというと、双子の姉に呼び出されて、レッドリー基地近郊の町の喫茶店で彼女と待ち合わせていた。
姉の名はウィング・シンファクシ。双子なだけあって、顔は私と瓜二つ。青髪も、翡翠色の瞳も瓜二つ。それだけに、彼女の背に生える翼と、私の背にある甲羅の違いがくっきりと示されて、こちらはますますコンプレックスが湧きあがる。
普通に姉とは仲は良いが、彼女のあの大きく美しい翼だけは昔から大嫌いだった。そして、自分自身の醜い嫉妬心にすぐに気がついて自己嫌悪に陥るまでがワンセット。
そんな私の面倒くさい心中など知るよしも無い姉に、先ほど振ってきた話の続きを聞く。
「きな臭いって何よ」
「なにか、良からぬ噂があるのよ」
彼女は、空軍の軍人になった私とは違い情報機関の道に進んだ。諜報員として国内外を文字通り、その背中の翼で飛び回っている。姉はスパイ、妹は戦闘機乗りと、娘二人揃って修羅場に行く事に、我が両親の胃痛は筆舌に尽くしがたいだろうが、ある種のスリル好きは私達姉妹の特性の様なものなのだ。
幸いうちの両親は大層仲良し……というより、母上が超絶イケメンな父上にベタ惚れしているというか、心酔しているというか、洗脳済みというか……。あの2人だけ異世界恋愛ではなく、ノクターンノベルズの方のノリで生きているという事もあって、家を継げる弟妹達は沢山いるので目を瞑ってほしい。貧乏人の子沢山である。
元々、男爵家の令嬢だった母上の所に、親戚の父上が家庭教師として出入りしていた所、YESロリータ、GOタッチの悪いロリコンである父上が母上(当時13歳)に手を出してしまい、挙げ句、母上が私達を妊娠してしまって、なし崩し的に結婚したという中々アレな馴れ初めの2人だ。父上の若い頃の写真とかを見ると、そりゃ母上が夢中になる訳だ、と納得するくらい顔は良いのに。性癖が危険過ぎるのよ。
母上は子供は絶対に産むし、彼と結婚するって言って一歩も引かないし、孫を父親のいない子にするのは忍びないしで、官憲に突き出されなかった父上はだいぶ運が良い。おかげで今も祖父母には頭が上がらないらしいが。
まあ、母上は母上で、貴族学校に入ったら王太子殿下(当時)を婚約者の公爵令嬢(今の王女様)から寝取って玉の輿に乗ったろ! とかアホな事を考えていたそうなので、ある意味ではこの結末になって良かったというか……。そうなったらそうなったで、ロクなことにはならなかっただろうし。
ちなみに、父上と会ってからは殿下の事はどうでもよくなったらしく、現在に至るまで母上は父上一筋である。そりゃ、思春期の多感な時期にイケメンで、スパダリ気質で、(下心ありきとはいえ)ストレートに愛を囁いてくる年上のお兄さんなんてものに会ったら脳を焼かれるだろう。
まあ、最終的に現状2人ともなんだかんだ幸せそうなので、これも一つの愛の形って事で。まだ、ギリギリ笑い話で済むレベルのはず……。いや、でも13歳の少女に手を出して妊娠させるのはアウトだわ。
なんやかんやあってそんな愉快な両親から産まれた私の双子の姉は、何枚か写真を見せてくれた。それから資料も数枚。
「…………何か、巨大な建造物が写っているわね。わざわざ行って撮って来たの?」
「そう。潜入捜査ね。スリルがあって面白かったわ」
首に下げた相棒のカメラを撫でつつ、そんな風にそれこそ小学生の様なコメントをする双子の姉に少し呆れつつ、私は建造物の写真を眺めた。
親父がだいぶやべーやつ
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