【イリアとアンヌの秘密(Ilia and Anne's Secret)】
3人で交代しながらハンドルを回し続けて20分後に、ようやく僕たちはエレベーターを地下のフロアまで降ろすことができた。
電気が使えれば3分も掛からないのに……そう思いながらエレベーターのドアを手動で開けると、地下フロアには電気が煌々と灯っていた。
「コレは一体、どう言うことなんだ⁉」とトムが驚いた。
トムも、このカラクリだけはジャンから教えてもらっていなかったらしい。
もともとここは地下100メートル以上の場所にあるから太陽フレアによる影響はないのだ。
地下に戻り監視モニターのある指令室に入ると、案の定地上に備えられてあった監視カメラの画面は真っ暗になっていた。
ニュースも全ての放送用電波やインターネット回線が使えなくなっているので、この過去最大級の太陽フレアの影響がどの様なものなのかなど、もうココからでは外がどうなっているかは分からない。
部屋には全員居た。
イリアも、そして死んだはずだったアンヌも。
「アンヌ、戻って来てくれて本当に嬉しいのだけど、訳を話してくれないか?」
僕は先ずアンヌに聞いた。
アンヌはチラッとジャンの方を見た。
ジャンはアンヌの視線を受けて、コクリと頷いた。
「今まで隠していて本当に御免なさい。実を言うと、私は人間ではなくロボットなんです」
なんとなく予想も出来ない回答が返って来るとは思っていたが、ロボットだと聞いて僕もケラーもルーゴもシェメールも驚いた。
驚いていないのはジャンとイリアだけ。
「どういうことなんだ⁉ だって僕の靴に仕掛けてある金属探知機はシェアーハウスに居たときも今もピクリとも反応していないぞ」
「嘘だ!信じられない‼」と、ルーゴが混乱したように大声を上げて否定した。
僕だって信じられない。だいいちアンヌの皮膚には確かにガラガラヘビに噛まれた跡が残っていたし、それによる血も滲んでいた。
「実は……」と言ってアンヌが続きを話しはじめた。
アンヌは今から100年以上前に作られたロボット。
金属探知機に反応しないのは、殆どのパーツを金属ではなく人間と類似した物で作られているから。
彼女は僕を狙おうとするモノから、僕を守るためにシェアーハウスに送られた。
何故ロボットなのに、ガラガラヘビの毒で仮死状態になったのか聞くと、エネルギーが切れそうだったので仕方が無かったのだと答え、なにしろ延々と電気を補充することの出来ない旅だったからと付け加えた。
では、どうして復活することができたのか尋ねると、敵の電源車が通ったからだと言った。
アンヌは敵の電源車によりエネルギーの補給を受け、その後も敵に見つからないように電源車からの電気が届く範囲内に付けてココまで辿り着いたのだ。
僕はイリアを見た。
彼女は倒れることはなかったものの、旅の後半から明らかに元気がなく、ココに辿り着く前日には立って歩くのが精一杯だった。 そしてココに来た途端、ケロッと治った。
「イリア、今度は君に聞きたい。同じようなロボットは一体何体いるんだ?」と。
イリアは2体だと答えた。
皆がイリアに注目する中、何故かトムだけがシェメールの方を向き、彼女から見る方向が違うでしょう!と、怒られていた。
「私はコノ無人政府システムの生みの親であるジョージ・クラウチ博士が、その妻であるコーネリア博士と一緒に作ったものです。アンヌはジョージ・クラウチ博士が亡くなった後にコーネリア博士が私に何か不具合があったとき用に作ったものとなります」
「じゃあ、2人は姉妹ってこと?」
トムの質問に、イリアとアンヌはお互いの顔を見這わせてコクリと頷いた。
「ラルフを守るためだと言うのは良く分かったけれど、イリアは確かにラルフの彼女となり彼の傍に居たのに、アンヌは何故ルーゴの傍に付いていたんだ? 僕にはその事が気になるのだけど、ルーゴもまたコノ危機に大切な人間の1人なのか?」と、ケラーが聞いた。
聞かれたアンヌはチラッとルーゴとイリアを見て俯いていたが、直ぐにイリアに肘で小突かれて顔を上げて話しはじめた。
「だって、好きになっちゃったんだもの……」
端的に、そして本心を分かりやすく伝えたアンヌは、人と同じ様に顔を赤くして俯いた。
「ロボットなのに、人間を好きになるのか……」アンヌの言葉に皆が納得する中で、ケラーだけが不思議そうに聞いた。
それについてイリアが答えた。
「私たちは人間の記憶をもとに作られた人工知能を持っています。だから人間を好きになるのは当然の結果です。他のロボットにしても考えて学習する能力を持っていますから、レオンや他の動物たち同じ様に自分を大切に思ってくれる相手に対して似たような感情を抱くのは至極当たり前のことだと思います」と言った。
そう。
知的な思考能力を持つものは人間だけじゃないのだ。
動物だってそうだし、ロボットだって……もしかすると昆虫などもそうなのかも知れない。