【スーパーフレア(Super Flare)】
「何が起きた⁉」
エレベータは全ての電気が落ちてしまい、灯りどころか昇降やドアの開閉も出来ない。
焦る僕とケラーを他所に、トムは落ち着いてマッチを使って蠟燭に火を点けるとエレベーターの扉のカバを開いてハンドルを回した。
ハンドルを回すことによってドアが開き、エレベーターの中に日の灯りが差し込む。
エレベーターの外に出ると、何だか様子がおかしい。
さっきまで聞こえていたロボットたちが崖を上る音や、崖の下に居るロボットたちが歩く音、電源車が放つ耳障りな周波数……それらが一切聞こえなくて、聞こえるのは鳥の囀りや虫たちの小さな声だけ。
“いったい何が起きたんだ?”
九八式臼砲を落としただけで全滅するほどの小さな戦力ではなかった。
「向うで飛行機が落ちてゆくぞ‼」
ケラーの声で彼が指さす方向を見ると、ラスベガスに向かっていた飛行機が地上に墜落した。
なにが起きたのかトムに聞く。
おそらく遅れて来たトムは、ジャンから事情を聞いているはず。
トムはスーパーフレアが起きたと言った。
スーパーフレアにより発生した電磁波やプラズマの噴出は現代社会に甚大な被害をもたらす。
太陽は日頃から電磁波やプラズマを発生させているが、その殆どは地球の磁場が跳ね除けているが、巨大なスーパーフレアによって起こさされたプラズマはその地場の流れを乱し磁気嵐を起こす。
磁場嵐によって全ての電気系統には、異常な電流が発生して機器を破壊する。
微弱な電流で動くCPUや大きな電流を扱う変電設備も、その影響から逃れることはできない。
また通信回路にも支障を起こすことは以前から知られている。
エレベーターの電源が落ちたのも、敵の電源車が発電できなくなったのも、ロボットが動かなくなったのも、飛行機が落ちたのも全てこのスーパーフレアによる影響であることは明らか。
敵の中には少数だが人間も混じっていて、そいつらも僕たちと同じ様に最初は状況を掴めずにオロオロとしているだけだったが、そのうちに僕たちが見ていることに気付いて銃を撃ってきたのでフロアの奥に逃げた。
彼らも崖を上ってここに来ることは明らかだが、電気の供給があれば疲れ知らずロボットとは違うから、直ぐにここまで登って来ることはないだろう。
けでども地下に降りるエレベーターが壊れた今、僕たちはどうするべきなのだろう?
できるだけ、人間同士の殺し合いは避けたい。
「おいラルフ、降りるぞ!」
考えている僕に、トムが声を掛ける。
「降りると言っても、エレベーターも壊れているんじゃないのか?」
「ばか! スーパーフレアが何時起きるか分かっていた彼らが、電気以外に動く手立てのないエレベーターを作る訳ねえだろう!」
「手動で昇降できるのか⁉」
「あったりめえよ‼」
僕たちはハンドルをキコキコと回しながら、エレベーターを地下に向かって降ろした。