【九八式臼砲①(Type 98 mortar)】
いくらイリアが人間離れして強いと言っても、格闘戦をして倒せるロボットの数はたかが知れている。
当然イリアの力は凄まじくて、僕たちが武器を使ってもナカナカ倒すことの出来なかったロボットをもう10数体も倒しているがロボットたちは後から後から崖を上って来るのでこのフロアに居る全体の数自体は一向に減らない。
ところが急にその敵のロボットが上がって来る数が途絶えた。
そして僕たちの眼の前に、目を疑うような人物が現れた。
「アンヌ‼」
それはガラガラヘビに噛まれて死んだはずのアンヌ。
更にアンヌはイリアと同じ様に、武器も使わずにバタバタとロボットたちを倒して行った。
「アンヌ、コレは一体⁉」
「話は後よ、もう時間がないわ!」
アンヌはそう言ってイリアの腕を引こうとするが、イリアはまだロボット兵が残っていると言ってアンヌの手を解いた。
「崖を上って来る何体かのロボットは私が突き落としてやったから、後は皆が食い止めてくれるわ」
「でも……」
「仲間でしょう⁉ 信用しなさい‼」
なおも連れて行こうとするアンヌに抵抗するイリア。
その時、フロアの一番奥の大型エレベーターの扉が開き、大きな声がした。
「ここは俺様に任せな! オメーたちより旧式の人間様がいかに強いかって言うのを、サッサと地下に降りてモニターで確認することをお勧めするぜ!」
声の主はトム。
トムは何某らの事情をジャンから教えてもらっている様子な上に、とんでもない武器を持って来ていた。
とんでもない武器、それは大昔のレシプロ飛行機が地上や艦船に向けて落として爆発させていたような爆弾。
「そんな航空機用の爆弾で、どうするつもりだ⁉」
崖から下に堕とすにしても、急こう配とは言え歩いて登れる程度なので、うまく落としたとしても爆弾の信管が何処かに当たって直ぐに爆発してしまう。
敵をビックリさせる効果はあるかも知れないが、残念な事にロボットには感情が無いから、そのビックリさえもしない。
「航空機用の爆弾だって? 勉強不足だな。これは九八式臼砲と言って西暦1938年(皇紀2598年)のメードインジャパンだ! イリア、そこに居ると邪魔だから早く退け‼」
イリアはトムの武器を見て、諦めたのかアンヌに引かれるようにフロアの奥に向かって行く。
「アンヌ……」
アンヌがイリアの手を引いてフロアの奥に向かっているとき、怪我をしたルーゴが見上げてその名前を呼んだ。
もちろんアンヌの方も、ずっとルーゴを見ていて、名前を呼ばれると直ぐにルーゴの前で膝間付いた。
「ごめんなさい。訳は後で話すからシェメールと一緒に付いてきて」と言ってルーゴの手を取った。
ルーゴは、ガラガラヘビに噛まれて死んだはずのアンヌが生きているだけでも驚いているのに、そのうえイリアと同じ様に人間離れしたパワーとスピードでロボットたちをバタバタと倒していったアンヌの姿を見て理解できずにボーっとしていた。
「さあ、早く、時間が無いの」
アンヌに促され、ハッとしてその手を取ったルーゴはシェメールと共にアンヌとイリアの後についてエレベーターで地下に降りて行った。




