【対決②(Showdown)】
ミサイルによる電源車の排除が叶わない事を知ったトムは、チョッと用事があると言ってコノ大事な時にもかかわらず持ち場を離れて地下に降りて行ってしまった。
戦場を前にして、そのプレッシャーに耐えられずに脱走してしまう兵士がいることは書物で読んだことはある。
脱走や敵前逃亡は著しい軍機違反となり、国によっては極刑に処せられる場合もあることは知っているが、僕たちは兵士でもなければ軍人でもないからトムの命に係わる決断に対して誰も不満を現すことはなかった。
ただ眼の前にある、もう直ぐ壊されてしまう扉を凝視して、その時を見守るだけ。
僕がほんの少しだけ思うのは、ここにイリアが居ないこと。
死ぬときのことを考えたとき、僕はイリアの腕に抱かれて旅立ちたい。
それが叶えられないことだけが心残りだった。
「あのバカ、なんでこれから大変なことになると言うのに戦場を離れた⁉」
全てのミサイルが敵に撃ち落とされたうえに、トムが離脱したことに気がついたジャンは珍しく怒りを露わにして言った。
「私、替わりに行ってきます」
「イリア、君は今外に出ては駄目だ」
「でも時間はまだあるんでしょう⁉」
「あると言っても……」
イリアの言葉にジャンはモニターの端に表示してあるタイマーの表示時間を見た。
時間は00時間23分45秒からカウントダウンされていた。
ジャンは眉間にシワを寄せ「15分、今から15分だけ、それまでに状況がどうあろうとも必ずココに戻って来ることを誓ってくれ」と言った。
イリアは、分かりましたと答えると、まるで人間とは思えないほどの素早さで部屋から出て地上に向かった。
とうとう扉は破られ、そこからロボットたちが次々に侵入してくる。
僕たちは各々が持ってきた、体ロボット用の自動小銃で応戦するがナカナカ上手くはいかない。
ロボットは人間と違い、全身が金属でできている。
しかも彼らには人間のように触れたものに反応する接触センサーは付いているものの、痛みは感じないし各組織に栄養を与える血液は流れていなくて動力の源は電気。
だから銃によって腕が千切れたとしても、その先にある部位が使用不能になるだけで動きを止めることはできない。
ロボットを止めるためには彼らの体の中に埋め込まれているCPC(制御装置)を破壊しなければならないが、CPUはとても小さい上に硬いカプセルに覆われているため破壊するのは困難だ。
「足を狙え‼」
とりあえずロボットの侵入を遅らせる事に重点を置いて、皆に足を狙うように指示した。
脚が損傷すれば彼らも人間同様に歩くことは出来なくなる。
ただしそれは前進するのが不都合になるだけで、戦闘は相変わらず継続するし戦意も失わないばかりか、前に進もうとすれば腕を使ってコッチに向かって来ることも出来てしまう。
「手りゅう弾だ!身を隠せ‼」
ルーゴが叫び、僕たちは一斉に物影に隠れた。
爆発が起こり、小さな鉄の破片が幾つも飛び散る。
僕たちはこんな小さな破片に当たってしまっても終わり。
とてもロボットには敵わない。