【招かれざる客④(Uninvited guest)】
僕は非常用の蠟燭を持って洞窟に向かう。
洞窟の中に入って直ぐ、人の気配に気がついた。
「誰だ!」
気配のする方に蠟燭の明かりを向けると、そこにはイリアが居た。
僕が、どうして?と聞く前に彼女は「私が行くと言っても、聞かなかったでしょう?」と言った。
たしかにあの時イリアが一緒に行くと言っても、僕はそれを許さなかっただろう。
僕自身は、死を覚悟していたし、死ぬときはイリアの傍で死にたかった。
けれどもイリアを同行させると言う事は、彼女自身も危険な目に合わすことになる。
もちろん皆の手前もあったが、僕は僕のためにイリアまで犠牲にする事を恐れていたから。
しかしイリアは僕より先に洞窟に来て待っていてくれた。
どうやってココまで来たのかは分からなかったが、彼女は来てくれた。
「覚悟は?」
「もちろん。私も一緒よ」とイリアは言った。
イリアの眼は今まで見たこともないくらい瞳孔が開いていて、まるで僕という存在そのものをその目の中に取り込もうとしている風に見え、僕も入ることが叶うなら彼女の中に……そう、胎児のようにその温かい体内で優しく育まれてみたいと思った。
しかし次の瞬間、現実にはあり得ない事を知っているはずなのに、何故か急に心が地の底を突き抜けて宇宙の果てに放り出されるほどの絶望感に襲われた。
“イリアを失いたくない‼”
僕は自分でも知らない間にイリアを強く抱きしめ、カチャンとキャンドルケースが落ちて火が消えることもいとわずに、叶わないと知りながら彼女の唇を求めていた。
「あー……火、消えちゃったわね」
「うん、ごめん」
僕がポケットの中からライターを取り出そうとしている間に、彼女は真っ暗闇の中でいとも簡単にキャンドルケースを手に取り僕の前にかざした。
イリアは灯りを持たずにココまで来て僕を待っていた。
一度通った道だから、洞窟の壁伝いに進むこともできるけど、その時は何故か彼女はもっと違う方法で来たのだと思った。
「もしかして見えるの?」
「音がした場所を覚えていたのよ」
イリアが言った通り耳は2つあるから、左右の耳に入る音の強弱や僅かな時間のズレで音のした場所を特定できる能力がある。
だから普段なら何もおかしいとは思わないのだが、そのとき僕はイリアが嘘をついたのだと思った。
何故そのように感じたのかは自分でも分からないし、どうしてイリアが嘘を言う必要があったかも理解できないが、その嘘は僕にとって致命的な何かを感じさせた。
“いったい、この感情は、どういうことなのだろう……”
深く考えるべきなのか、それとも軽く忘れておくべきことなのか迷っていると、暗闇の向うから小さな炎が揺れながら近付いて来るのが見えた。
“誰だ⁉ 奴らなのか?”