【招かれざる客③(Uninvited guest)】
招かれざる客はロボットたちだけではなかった。
映像を見ていると洞窟の中でエネルギー切れにより倒れたロボットたちに何が起きたのか確認するため、懐中電灯を持った人影も数名確認できたが、その人たちも電池切れに陥り灯りを失った。
更に見ていると、次には倒れた仲間を救助するために、ごうごうと火を焚いた台車を押しながらまた数名洞窟に入って来た。
火を焚いたまま中に入ってくれば、先に明かりを失い身動きが取れなくなった仲間共々酸欠によって死んでしまう。
「やめろ!引き返せ‼」
僕は届かない声と知りながら、無意識のうちにモニターに向かって声を掛けるとジャンはそのモニターのスイッチを切り、席を立とうとした。
「待ってください! 彼らを見殺しにするつもりなんですか⁉」
ジャンは僕に背中を向けたまま、洞窟で大量の火を焚けば酸欠になる可能性が高いのはココだけに限った事ではないと言った。
「しかしコノ洞窟は確実に酸欠になるように作られています。だから予め彼らがどうなるか分かっています。それを放置しておくのですか?」
僕の言葉にジャンは一言だけ「敵だぞ」と答えたので僕は「違う」と返した。
ジャンは振り返らないで、どう言うことか?と聞いてきた。
たしかに今は敵対しているかも知れないが、まだ向こうから宣戦布告されたわけでもなく今現在戦っているわけでもないから敵と断定するのは早いし、人の命に係わることだから慎重に事を運ぶべきだと伝えた。
ジャンが振り返り、事を運ぶとは一体どうするつもりだと、いままで見せた事のない鋭利な刃物のような鋭い眼で僕を睨む。
僕はジャンの眼光に負けないくらい真剣な眼差しで彼を見つめ返して言った。
「アナタは僕がカギを握る人物だと言った。だけどそれはアナタやアナタ方の立場で物事を考えた場合のことで、別の立場から物事を考えた場合僕の立場は著しく変わってしまうかも分かりません。もしアナタがアナタの呼ぶ “敵” であったなら、僕をどうしますか?」
「知らん!ワシはオマエの敵ではない」
ジャンは明らかに狼狽していた。
「では僕が直接あの人たちに聞いて来ます」
「マ、マテ!」
ジャンが僕を止めようとする。
ケラーが僕について行くと言うと、トムやルーゴ、そしてシェメールも一緒に行くと言ってくれた。
だけど僕は皆の申し出を断った。
あの人たちが本当の敵であったなら僕は殺されてしまうかも知れない。
ジャンが言うように僕が選ばれた人間で、ソレがあの人たちにとって脅威となるのであれば僕一人が死ねばあの人たちにとっての “敵” は居なくなる。
人間は性根が曲がっているから、戦いはいつか起こる。
ただ戦う事になった場合、リーダーたるものは如何に犠牲を少なくして戦いを終息させるのかを考えるべきだと思う。
もし僕が本当に選ばれた人間なのであれば、もしかしたらソレが出来るかも知れない。
僕は部屋を出て行く。
大学の仲間の中で唯一、僕について行くと言わなかったイリアは何故か僕より先に部屋を出て行った。
何故イリアは僕について行くと言ってくれなかったのだろう?
彼女が行くと言っても、僕は決してそれを許さない。
だけどもし僕があの人たちに殺されるとしたら、イリアが言ってくれなかったことだけ、それだけが僕にとって心残りになるだろう。