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Be careful !!   作者: 湖灯
7/92

【嫌な夜の始まり(The beginning of a bad night)】

「あー、つまんない。退屈で死ぬわ」


 次の日の夜も、誰も戻ってこなかった。

 いつもはガヤガヤと賑わっていた食堂やテラスだが、今は僕たちだけ。

 50人ほど居た学生の6分の5が出て行ったのだから、イリアの言うように退屈に思えても仕方ない 


「外に出てみようか?」

「えっ、外……なんかドキドキしちゃう! もう日が暮れているのに、外に出て何をするの?」

 イリアの白い顔に、ほんのりと朱色に染まる。


「散歩だよ」

「散歩の後は?」

「星でも、見ようか」

「ふぅ~ん……」

「なに?」

「なんでもない!」


 外に出ると、ルーゴのギターに合わせてアンヌが歌っていた。

 ルーゴはギターが、そしてアンヌは歌が共に上手い。

 1世紀前に生れていたなら、2人とも音楽に道に進んで有名になっていたかも知れない。


this is the beginning

And this is the end, the end

don't have dreams

Because dreams never come true

Dreams that don't come true are drugs

drive people into delusions

Please give up

give up fighting

There are no winners in fighting

Live without going against nature!

Being human-like is just a conceit

Go back to animals!

That's the law of nature

The rules of life


this is the beginning

And this is the end, the end

don't have dreams

dreams never come true


you can't do it

Of course no one but you


this is the beginning

And this is the end, the end


this is the beginning

And this is the end...


「寂しい曲ね、まるで監獄に閉じ込められた囚人が見えない空を見上げて、自由を叫んでいるみたい」

 イリアが言った。


「僕たちは自由だよ」


 この時代……少なくとも無人政府が運営する国に住んでいる限り、全ての国民は平等で何不自由のない生活が保障されている。

 豪華さを求めなければ、スミスやジョウたちのようにロスアンゼルスから500キロも離れたサンフランシスコにも行けるし、申請が通れば海外旅行だってできる。


「時々、思わない? 私たちって、何のために生きているかと」

「何のために生きている?」


「歌手や俳優になりたくても、この世界ではそれは全てAIが担っているでしょう? 作家やパイロット、漁師や農民、軍人だって無人システムが担っていて私たち人間が担う物なんて何にもない」


「職業としては無くなってしまったけれど、趣味としてなら何にでも挑戦できる。それじゃあいけないの?」


「夢がないのよ。将来、何かになりたくて人は努力するものよ」

「夢がない人だっているだろう?」


「夢がない人!?」

「ただ給料を貰うためだけに、やりたくもない仕事に拘束されていた昔の人たち」

「そんな人にも、夢はあるのよ」


「どんな夢?」


「たとえば、叶えられないと分かっていても趣味として続けることで夢を実現させることが出来るかもしてないとか、自分は果たせなかったけれど子供には夢を実現させてあげたいとか、ただ単に家族の幸せを願うとか」


「ふーん……」

 イリアの言ったことは今も昔も変わってはいない。

 成果を上げた人が居るか居ないかだけの違い。

 夢が現実になったとして、その夢が本当にその人の幸せにつながったのかどうかが問題だ。

 夢が実現して逆に悲しい思いをした人も多くいたことは知っている。 それならむしろ夢は夢として永遠に叶わない方が素晴らしいのではないだろうか。


「ラルフは、夢はないの?」

「一応は、ある」

「えっ!? どんな夢?? 教えて‼」

 イリアが、まるで急に現れたオバケを避けるように、瞬間的に一歩遠退いた。


「その前に、そのリアクション気に障るんだけど……」

「ゴメン、だって、無いと思っていたから。で、どんな夢??」

「基礎科学の研究を続けて、新しい未来を切り開くこと」

「……」


 僕の言葉に一瞬イリアの時間が止まる。

 何か変なことを言ってしまったのかと僕が戸惑っていると、イリアの時計は止まっていた時間を取り返すように早送りになり、僕に飛びついて来た。


「ど、どうしたんだい、いったい!??」

「凄いわ、ラルフ、素晴らしいわ!」


 抱き着いたイリアは僕の顔にキッスの嵐を浴びせかけ、驚いていた僕もいつの間にかそれに応えるように唇を合わせていた。


 満月の光が夜露に濡れた芝生の表面を星空に変え、僕たちはそこに作り出された宇宙に飛び込んでいった。




「よう、こんな夜中にジョギングかい?」


 シェアーハウスへ戻ると、玄関ロビーに居たトムにそう言われた。

 ジョギングなんてしていないのに……と、思ってイリアと見合わせた。

 お互いに少し上気した顔に体からはホンノリと湯気が上がっていて、慌てて「そうだ」と回答すると、トムは僕たちの答えには全く関心が無いように「ふぅ~ん」と気のない返事をして廊下の奥に向かって行った。

「皆さんこんばんは、ルーゴです」

「アンヌです」

「今回は僕が作詞&作曲した歌を披露させて頂きました。この歌詞の和訳は、作者の短編『No one but you』に入っていますので、そちらの方も是非ご覧ください」

「ところでルーゴは何で、昔のシンガーみたいな事をしているの?そんなことをしても今の時代では億万長者にはなれないわよ」

「アンヌいい所に気付いたね。そう僕たちは今の時代、歌を作って物凄い収入を得ることは出来ないんだ。でも、皆の前で歌うことを禁止されているわけではないんだ」

「そうよね。人間によるコンサートは今も行われているし、野球やサッカーをはじめスポーツのイベントも、演劇も行われているよね」

「そう。昔と違うのは、それが全てボランティアで行われていると言うことなんだ」

「ボランティアと言っても、特にスポーツ選手なんかは、特別なケアを受けられたりするのよね」

「そう。体は消耗品だからね」

「それに国内だけではなく、海外に行ける回数も普通に暮らしている人たちよりは多くなるし、興業が行われる地域では手厚い接待もあるんでしょう?」

「その通り。つまりお金は絡まないだけで、普通に活動は出来るんだ」

「これは昔、あまりにもお金で身を亡ぼす人や、そのお金目当てに詐欺を働いたり、お金絡みの犯罪が絶えなかったから、こうなったのよね」

「そう。純粋に好きなら何にでも挑戦できるのが無人政府の考え方だから、自由は保障されているんだよね」

「さすが時代の最先端ね」


「さて来週の『Be careful !!』は」

「【ムサラドの彷徨(Wandering of Mussarad)】をお送りします」

「彷徨って、どこを彷徨するの?」

「さあ、知らないわよ。帰ってくるんじゃないの?」


「「それでは、来週もまた読みに来てくださいね♡」」

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― 新着の感想 ―
[一言]  ロマンティックな夜の風景なのに何処か虚無感が漂っているような感じ。  ふとスカーレット・ヨハンソンが出演していたアイランドと云う映画を思いだしました。  湖灯様はこの映画観ましたか❔  何…
[一言] 夢、確かに皆、叶わないと思っていたとしても確かに何かしらの夢を持てていた方が人間としては幸せなのかもしれませんね。その夢すら持てないというのは、もしかしたら切ない事なのかもしれませんね…
2024/04/17 23:12 退会済み
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