【事実と絆④(Facts and Bonds)】
トム以外……正確に言えばトムとイリア以外の4人は、刺客……つまり裏切り者の襲撃に備えていた。
トムにしても、そういったストレスから逃れるため音楽をガンガン鳴らしてストレスを発散させていたのだろうことは、大学のシェアーハウスで4年間一緒に過ごした僕たちには分かる。
そしてイリアは、ムサラドとジョウの2つの殺人事件が起こったとき、いずれの場合も僕と一緒に居た。
これで僕たちの中に裏切り者はいないと言う事は証明されたし、皆もその事は分かった。
だけど問題は未だ解決してはいない。
ジャンは何故このタイミングであんな話をしたのだろう?
まるで僕たちそれぞれが、疑心暗鬼に陥るような。
答えは直ぐに分かった。
それはこのあとジャンが緊急事態だと皆を集め、修理していた拳銃が見当たらないと皆に伝えた。
当然僕たちはお互いを疑うことはなかったので、不審な顔でお互いの顔を見ることもなく、外部からの侵入者や他に誰か居ないのかを疑った。
そしてトムが言った。
「オッサン、危険だからと思って、どこかに隠したんじゃねえのか」と。
ジャンはその言葉を聞いて、思い出したかのように金庫の鍵を開けると、そこにはトムの言う通り修理中の拳銃があった。
「もう、いいですよ」と、僕はジャンに言った。
ジャンは僕と僕たちを試している。
僕の言葉にジャンは直ぐに「わかった」と答えた。
それからの僕たちは、ここで忙しい日々を送る事になった。
僕たちは2つの班に分かれて、ここにある様々な物を習得する。
イリアとトムとルーゴは、武器や設備に関して、そして僕とケラーとシェメールはここにあるコンピューターに関しての知識を。
武器のことは詳しくないが、武器にしても設備の保守や仕組みに関しても知識や理論は勉強することによって知っていても、保守管理を実際に行うのはロボットたちだったからイリアたちは大変だろう。
僕たちも規格の全く異なるコンピューターに最初は戸惑った。
なにしろこのコンピューターに使用されているソフトウェアーにはAIによるサポートが組み込まれていないから、分からない問題に直面しても自分たち自身で問題を解決するしか手はないし、音声による指示も使えないから悪戦苦闘の連続だった。
何日か過ぎたころ、ようやく何とかシステムエンジニアらしくなってきたと自覚できるようなレベルまで来た僕たちは、その日休憩を取った。
シェメールが珈琲を入れに行ってくれた時、僕はケラーと話をした。
お互いに今まで2人きりで話した事なんてない。
何を話せば良いのかさえ分からなかったが、僕は何故か彼と今まで話をする機会が無かったことに後悔していた。
「まさか大統領の末裔とコンビを組むとは思わなかったな」
ゲスな話で申し訳なかったが、僕が彼について知っている事と言えばジャンが言った彼が合衆国の初代女性大統領の末裔である事くらいなので仕方なしにそれを言った。
「よしてくれ、僕はその事には振られたくは無かったんだ」
僕の話かけた言葉に、ケラーはそう言った。
完全に僕のミス。
これで話は続かない。
ところが、ケラーはその後に「今までは」と言う言葉を付け加えた。
「今まで!?」
「そう。今までは……ところでラルフ、君は君の先祖について何か知っている?」
僕の先祖?
僕が僕の先祖について知っている事と言えば、僕の名前を付けたのは僕が生まれるよりも100年近く昔に亡くなったお婆ちゃんの遺言だと言う事だけだったので、そのことをケラーに伝えると彼は今まで誰にも見せた事のない無邪気な笑顔を僕に見せて笑った。
「どうした!??」と驚く僕に、ケラーは「やはり君だった」と僕の肩を少し叩いて言った。
「やはり僕とは?」
「君、知らないのか? 実は僕の先祖で大統領になった祖母と君のお婆ちゃんは友達だったんだよ」
初めて知った。
大統領になったリリアン・カービンと、僕の先祖のお婆ちゃんが友達だったなんて。
「そして君のお婆ちゃんの御両親は今では当たり前になっているサイボーグパーツの生みの親で、更にその上つまりお婆ちゃんのお爺さんはコノ無人政府などのシステムの生みの親でもあるジョージ・クラウチ博士なんだよ」
「えっ……ええぇぇーっ⁉」
初めて知った。
大統領になったリリアン・カービンと、僕の先祖のお婆ちゃんが友達だったなんて。
「その友達だった先祖の名前はシーナ・コーエンと言って、統合参謀本部の補佐官を務めたそうだ。そしてそのシーナお婆ちゃんの親は今では当たり前になっているサイボーグパーツの生みの親で、更にその上のお父さんはコノ無人政府などのシステムの生みの親でもあるジョージ・クラウチ博士なんだよ」
100年以上も昔の僕の先祖ってなんて凄いんだ!?




