【事実と絆①(Facts and Bonds)】
つまり話はこうだ。
US世紀が始まろうとする前後から、無人政府や無人システムに対して悪意を持った何者かが執拗なハッキング行為を行い、その一部に侵入することに成功した。
おそらくトルコやイラク北部で起きた無人政府軍によるクルド人への大量虐殺は、ハッキングにより操作されたモノだろう。
「中国やアフリカ諸国で多く見られる特権階級と貧困層の経済格差による暴動も、そうなのか?」
「いや、それはおそらく彼ら人種による問題だろう」
「だいいち、それらの国々は自分たちの都合のいい無人システムは導入しているけれど、都合が悪くなる……つまり利権を失ってしまう可能性の高い無人政府は導入していないでしょう?」
「ああいった国々は、歴史的にみて道徳学上の文化が極端に遅れているからな」
みんなが意見を言い合ったように、僕たちが敵と呼ぶ彼らのターゲットは無人政府。
起こるはずもない飛行機の墜落。
しかもその墜落は、僕たちを狙ったもの。
おそらくジョウやムサラドの死とも、彼らは深く関与しているに違いない。
ひょっとしたらジャンは2人の死について、何らかの手掛かりをつかんでいるのかも知れないと思い聞いてみると彼は少し沈黙した後にこう話してくれた。
「ムサラドには、本当に気の毒な事をしてしまったと」
事情を聞くとムサラドはジャンと通じていて、ある調査をしていたらしい。
調査とは、無人政府のシステムを書き換えようとしている者たちの企みに関すること。
もちろん、その者たち個人を特定することも含めて。
そしてロスアンゼルスで行われたデモに参加した際に、企てに関するある事実の入手に成功した。
「その事実とは!?」
「さあ、彼はその事実をワシに伝えるために不用意に連絡しようとしたことで、彼自身が彼らにとって危険な存在であることがバレてしまい追われる身になり、そのことを君たちに伝えようとして奴らによって命を絶たれた」
「犯人は、やはりロボット!?」
「いや、一部のロボットの行動を制御することに成功したヤツ等であり、たしかにロボットもこの事件に関与はしているとは思うが、詳しい所までは未だつかめていない」
「ジョウは? ジョウは、どうして殺されたの⁉」
「彼はシリコンバレーで行われた無人政府の反対集会から逃げ延びてきたところを奴らによって殺された」
「反対集会から逃げ延びてきた⁉」
「反対集会で、何があったのですか⁉」
ジャンは僕たちの問いに、悲しい顔を向け「粛清」だと言った。
「粛清⁉」
つまり、ロスアンゼルスのデモも、サンフランシスコのシリコンバレーで行われた反対集会も無人政府に反対する指導的立場の人間を誘き出すための罠だったとジャンは答えた。
「しかしデモも反対集会も、テレビでは問題なく行われいたぜ」
「そうよ。ムサラドもスミスもジョウも、テレビに映っていたわ」
ジャンの言葉に納得のいかないトムとシェメールが、そのことを指摘するとジャンはハッキングにより掌握した西地区のコンピューターのAIによる書き換えだと言った。