【ジャン・カルロス⑤Jean Carlos)】
次の日、ジャンはコノ秘密のアジトの中を見せてくれた。
小さなアジトだと思っていたが、案内されると内部は何層にも分かれていて巨大な地下基地と言っていいほどの広さがあった。
驚いたのはソノ面積だけではなく、地下内部には電子書籍でしか見たこともない旧世紀の乗り物だけでなく、中には見たこともない物もあり驚いた。
「コレは?」
「WC63パーソナルキャリアと呼ばれるAC 1943年式のトラックだ」
「この中にはモーターがあるのか?」
トムはボンネットを触ってジャンに聞くと、化石燃料で動くエンジンが入っていると答えた。
車庫と呼ばれるスペースには、WC63の他にも荷台の中央に機関銃が搭載されたウィリス M38と言う小型のジープや、蒸気で走る車に蒸気自動車で使用されるコークスと言う燃料そのもので動く自動車など、そのどれもが自動車の創世記に近い代物で、化石燃料型自動車が最も栄えたAC21前後に開発された自動車が1台も無いのが不思議に感じた。
格納庫と呼ばれるスペースには翼に布が貼られているヘンテコな形のプロペラ飛行機があり、武器庫には旧世代の大砲や20㎜機関砲をはじめ戦車や重火器に小銃と言ったものが沢山収められていて、トムが「骨董品の博物館でもやるつもりなのか?」と呟いていた。
更に異常に長い螺旋階段を降りて行くと、そこには今まで見てきた骨董品とはまるで違う、大型のコンピュータールームがあり僕たちはそのギャップに驚かされた。
そして僕たちはその場所で、僕たちがココに来ることになった全ての理由を聞かされた。
ジャンがその話をはじめる前に僕は先ず何故理由も話さずに出発を急がされたのかを聞くと、ジャンは録画されたニュースの画像を見せてくれた。
映像には小型機が墜落して炎上する建物様子が映っていた。
見覚えのある建物。
燃えているのは間違いなく僕たちの居た、大学のシェアーハウス。
たしかに出発を急がされた僕たちがシェアーハウスを出たあと、何かの爆発音と燃え上がる炎がシェアーハウスのあった方角であったのは確かなこと。
これで僕たちを狙っている敵がいることは確かになったが、ムサラドやジョウの時と違って何故このように大掛かりなことを敵は行ったのか?
この疑問に対して、ジャンは“君たちの中に居る[誰か]を抹殺するため”だと言った。
ジャンが名前を言わなかった事に違和感を覚えた。
彼は僕が選ばれた人間としての資質があるかどうか旅を通して試していたと言っていた。
ならばココに入るのは[誰か]ではなく[ラルフ]もしくはまだ明かされていない名前が入るのが妥当なはず。
名前を入れなかったと言う事は、ジャンもまだその人物の特定に至っていないか、それともその人物を知っていて何かの理由で隠す必要があるということ。
前者の場合は用心深いジャンの性格からして、特定されていない人物を自らのアジトに招き入れることは考えにくいから、ジャンはその人物を知りながら僕たちに隠している事になる。
でもいったい……。
「なんで30分後に小型機がシェアーハウスに墜落するって分かったんだ?」
トムが聞いたことで、僕の脳は考えを中断し、そっちの疑問に向けられた。
確かにおかしい。
無人機は墜落しないように動力系統は分散されているし、大昔に使用されていたジェット機のように大量の空気をエンジンが直接吸い込むこともないのでバードストライクも起こらない。
しかも飛行機内部に収納された各システムやパーツは常にコンピューターによる自己診断を行っているし、何か不具合があれば機体内部に居る超小型ロボットたちが必ず修復にあたる完璧な保守システムを持っているから飛行中に運悪く隕石の直撃を受けない限り墜落することはない。
無人ではあるが、数百人数千人のパイロットや技術者が機内の至るとこを自由に点検整備出来るというのが無人システムの強みだったはず。
そして航空機は、たとえ小型機といえエアポート以外に着陸することはない。
しかも30分後に墜落を予見できるなんてことは、攻撃を仕掛けた本人にしか分からないはず。
もしかしてジャンは僕たちをココに集めて一気に始末しようとしているのではないかと思い、僕は中指で眉を撫でて皆に警戒するように合図を送った。