【ジャン・カルロス④Jean Carlos)】
「えっ、でも俺たち普通に来れたぜ!?」
「その普通が、普通ではないのだ」
「どういうこと?」
「実はな」
そう言ってジャンは、話し出した。
彼によると、あの洞窟の一部は僅かだがUの字に道が窪んでいるという。
つまり小さな火を照明として使う分には左程問題は無いが、大きな火を燃やせばUの字の窪んだ箇所にドンドン二酸化炭素が溜まっていくようになっている。
「それって……」
「つまり窒息死してしまうように作られているんだ」
「それで真ん中が空に抜けていたんですね」
「ラルフ、それって、どういう事?」
「つまり上層の暖かい空気と共に酸素を外に逃がして、その空気の流れによって効率よく二酸化炭素を窪地に集める仕組みなんだ」
「へぇ~よくできているな……ってか、この人殺し‼」
怒るトムにジャンは、生きて抜けることができたんだから、ワシは人殺しではないと言って笑った。
「しかし懐中電灯を使えば簡単に通り抜けれるのではないですか?」と、ルーゴが言った。
「あの洞窟には所々に徐電機が仕掛けてあるから、洞窟の途中で電気は切れる。まあ君たちの殆どは既に電気を失っていたから、これは不幸中の幸いだな」と言って頭を搔いた。
僕たちは洞窟の外に仕掛けられた幾つもの罠に掛らず、しかも洞窟も上手く抜けてココまで無事辿り着くことができた。
だけどジャンの言った一言“君たちの殆どは既に電気を失っていた”と言う文言に僕は違和感を覚えずにはいられなかった。
何故なら僕たちは、給電装備のない自然エリアを進む旅に出て直ぐに電気を失っていたから。
この言葉の意味は、いったいなんだ……。
「ところで貴方は、僕たちに何をしろと言うのです?」
ケラーの問いに、ジャンは追々に話すとだけ答え、せっかく作った料理を温かいうちに食べようと言って話を打ち切った。
本物のターキーは格段に美味く、そして少しだけ心が痛んだ。
生きている動物の味と、命を食べる尊さ。
でも昔の人たちはコレを当たり前のように食べるために飼い、当たり前のように食べ、そして当たり前のように残しては捨てていた。
だから無人政府は動物食を改め、植物由来の合成肉に変えた。
夕食が終わり僕たちは各々に用意された部屋に入り、順番にシャワー室で体を綺麗にした。
「洗濯機もあるのね!」
「なんだかんだ言っても、自分も結構文化的な生活をしているじゃねえか、あのジジイ」
「シッ、失礼よ!」
シェメールがトムの悪態に釘を刺す。
「イリア、どう?」
「もう平気よ」
イリアもすっかり元気を取り戻したので、僕はイリアを連れて崖の上まで戻った。
夜空には満天の星々が煌めく。
今から5000年前のメソポタミアの人たちが夜空に煌めく星々を線で繋ぎ星座を作ったが、我々人類が化石燃料を使うようになった頃はこんなに星は見えなかったらしい。
「あれっ⁉ あそこだけ星が見えないわ」
「えっ、どこ!?」
「ほらあそこ」
イリアが華奢な手を伸ばし、細く長い指を突き出して方向を示す。
僕は一瞬、彼女が指さすものよりも、彼女の綺麗な指に心を奪われる。
まるで魔法にかかったように……。
「わかった?」
イリアが奏でた次の声で、魔法は解けて僕は慌てて彼女の指さす方向を眺めた。
「あー、太陽光パネルだよ」
そう。この時代では宇宙にある太陽光発電所の巨大パネルにより星々が隠れる現象が天文ファンにとって悩みの種なのだ。